パントゥーフル ~スリッパの乱~
すぐに電車には乗らず、もう一度会社に取ってかえした。

ロッカーから、来月の結婚記念日に渡そうと思って買っておいた物を取り出し、人の少ないフロアの給湯室へ移動する。
うん、よさそうだ。定時後だし、ここなら人は来ないだろう。

まず弁当箱を丁寧に洗った。
それから、アタッシュケースからポストイットとサインペンを取り出し、弁当箱の底に小細工をする。
その上にラップを丁寧に敷いて、ここでやっとケーキの出番だ。
僕は一瞬息を止め、1個600円もするイチゴショートをエイヤッとひっくり返して弁当箱にぶちまけた。
それをフォークの背で丁寧にならす。
チーズケーキをダイスにカットして、上にばらまいたら出来上がりだ。

なんとまあ、無残なケーキの成れの果て!
パントゥーフルのパティシエが見たら卒倒するかもしれない。
僕は美樹が蓋を開けた時の顔を想像して、クックックッと笑った。


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