幸福音

幸福音

走って10分くらいのところで、椎名が立ち止まった。



「……ここが家。弟は今、学校に行っていると思う」



そのくらい知っている。

この1週間、ありとあらゆる手を使って、椎名のことを調べたのだから。

まあ、椎名のことをよく知っている友達に事情を話して連絡しただけなんだが。


椎名に連れられて、家にあがらせてもらう。

親御さんもいないようで、家の中は静かだった。



「椎名。電子ピアノあったよな?」

「なんで知ってるの」



椎名が俺をストーカー扱いするような目で見てくる。

まあ、それに近いことをしていたといえばしていたが。


そんな話はあとでいい。



「練習するぞ」



椎名の弟が帰ってくるまでに、椎名と音合わせをしたい。


やるからにはやりとげたい。

中途半端なものではなく、想いを乗せた曲を届けたい。


案内されて椎名の部屋に入る。

女の子の部屋に入ったのは初めてだが、それすらどうでもいい。


俺は電子ピアノを見つけると、スイッチを入れた。
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