きみはカラフル




「私が加恵ちゃんのお腹に赤ちゃんがいるとわかったのはね、それは、加恵ちゃんに()が見えたからよ」

「え、()?」

「そうよ。私や母みたいに人の死についての()が見えるタイプには、その反対に人の生に関する()も見えるみたいなの。だから、いつも一色の人が妊娠したら二色に見えるし、いつもは無色の私達みたいな特殊能力のある人が妊娠したときは、妊娠中だけ、()が見えるようになるのよ。旅行から帰ってきてしばらくしたときから、加恵ちゃんにはそれまで見えなかった()が見えるようになったの」

「わたしに、()が………」

「同じ力を持ってる親戚の女の人が妊娠したときも、そうだった。出産したらまた無色に戻ってしまうんだけどね。でも、妊娠出産って必ずうまくいくとは限らないし、初期流産もあり得るから、私はいつも本人から妊娠や出産の報告をされるまではなるべく気付かないフリをするようにしてたの。でもあの日、最後に会ったとき、真っ黒になってる弘也には、そのことも教えたの。加恵ちゃんのお腹に、新しい命が宿っているのよ……って。教えずにはいられなかった。……弘也は、すごくすごく喜んでた。もちろん喜ぶと同時に、残される加恵ちゃんのことを心配する気持ちも大きかったみたいだけど、それ以上に、自分がいなくなったとしても、加恵ちゃんが一人ぼっちにならずにすむって、本当に喜んでたのよ」


弘也さん………
弘也さん弘也さん弘也さん…………っ!


もう、わたしは、わたしの感情は、何がどうなったのか、何なのか、その色も種類も大きさもわからず、ただただ、涙腺は大決壊してしまった。

こんなに、こんなにも弘也さんが好きなのに。
弘也さんも、こんなにもわたしを想ってくれているのに。
なのにどうして、離れ離れにならなくちゃいけないんだろう。
どうして、弘也さんはここにいないのだろう………

どんなにどんなにどんなに願っても、それだけは叶わない。
弘也さんに会いたい。
弘也さんと、このお腹の子と、幸せになりたかった。
幸せにしたかった。
わたしを受け入れてくれて、わたしに色をつけてくれて、わたしにたくさんの宝物を贈ってくれて、命をかけて、わたしと子供を守ってくれた。
わたしだって、守りたかった。
弘也さんを、失いたくなかった………


止まることない涙は、溢れて流れ落ちても、またこぼれてくる。

弘也さんのお姉さんは、わたしの感情が落ち着くまで、ずっと待ってくれていた。


「まだ籍は入れてないけど、加恵ちゃんのことは大切な妹だと思ってるわ。だからお腹の赤ちゃんのことも、私や父にも関わらせてね。何があっても、加恵ちゃんと赤ちゃんのことは守るから。弘也の分まで」

お姉さんは優しく、けれど力強く言ってくれたあと、わたしを抱きしめてくれた。
すると、わたしもなぜだかホッと、心を戻すことができたのだ。
それは、弘也さんのお姉さんという特別な人との抱擁だったからかもしれない。
もしかしたら、お姉さんが、わたしと同じ()を持つ仲間だったから、なのかもしれない。
でもひとつ言えることは、そんな仲間に引き合わせてくれたのは、間違いなく弘也さんなのだ。
そして、このお腹の子に巡り会わせてくれたのも、弘也さんだ。
わたしは、感謝してもしきれない弘也さんへの想いを抱えながら、お姉さんとの時間を過ごした。

そして、溢れかえっていた感情が落ち着きを取り戻したあと、ひとときの実り多い時を経て、お姉さんをお見送りしたのだった。


そのあと、一人きり…正確には、お腹の中の赤ちゃんと二人きりになった部屋で、お姉さんから受け取った弘也さんの手紙を読むことにした。








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