今さら本物の聖女といわれてももう遅い!妹に全てを奪われたので、隣国で自由に生きます
「殿下、婚約破棄してくださるのでしょう?」

───立場が逆転していた。

つい一昨日までは王太子が私に婚約破棄を言い渡すほうだったのに、今では私が彼に申し立てている。プライドの高い彼にはさぞ許し難いだろう。

殿下はすぐさまムッとした顔をした。実にわかりやすい。愚鈍で愚かで、のろまな王太子様。一昨日までは私はあなたを愛していましたわ、一昨日までは、ね。

「当然だ!マクシミリアン・セイフェルーンはミレルダ・シェイランとこの場において婚約を破棄する!!誰がおまえのような高飛車で根性悪な女と結婚などするものか!」

「あら、奇遇ですわね。私も全く同じことを思っておりました」

「何だと………!?」

「プライドだけは高くてそのくせ小心者で考え足らずな能無しと婚姻するのは嫌ですわね、と申し上げたのです」

「な………!お前は俺がそうだと言いたいのか!」

王太子はまたもや顔を真っ赤にして怒った。ミレーヌが悲鳴をあげている。王太子は今にも剣を抜きかねない怒気を孕んでいて、いつ掴みかかってきてもおかしくない。とにかく、言質はいただいた。先程の『婚約破棄をする』という発言。まさか名前付きで宣誓してくれるとは思わなかった。私はそれを映鏡玉(レポーシ)と呼ばれる魔道具にその一部始終を映しておいた。これで言い逃れはできない。

「まさか。そんな恐れ多いこと申し上げませんわ。ただ、私が言いたいのは、私の振る舞いにものを仰る前に我が身を鑑みていただきたいわ、ということです」
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