お願い、名前を呼んで。
「山田部長には僕から話しておいたから。」

「ありがとうございます。部長は何か仰っていましたか?」

「今後のことは、君達に任せるって。全ての責任は僕が取るからって。」

「それってどう意味でしょうか?」

この期に及んで、まだ関わるつもりがないってこと?
責任を取るって、どうやって?
今までの部長の対応からしても、私には腑に落ちない

「僕は、言葉の意味通りに受け取ったけど。」

「そうですか。分かりました。」

藤田さんがそう言うなら、私には返す言葉はない。

「さて、これからどうしようか?もう手を引くってのもあるけど。契約書も交わしているのに、今更こんな事を言ってくるなんて、僕には言い掛かりにしか思えないしね。野崎さんはどう思う?」

「私は・・・。正直、関わりたくない気持ちもあります。」

私は、藤田さんの目を真っ直ぐに見て言葉を続けた。

「でも、今までのチームの皆さんの時間や努力が無駄になるのはもっと嫌なんです。それに、私達が手がけた劇場が新しく生まれ変わって、それを楽しみ来られるお客様達の笑顔を、自分達で見届けたいっていう思いもあります。」

「野崎さんらしい意見だな。まぁ、それが僕達の仕事の醍醐味だし、苦労が報われる瞬間でもあるもんな。実は、野崎さんがそう言うと思って、一応、経費削減のプランを電話の後からすぐに考え始めてたんだ。」

藤田さんは、最初から私の意見を聞いてくれるつもりだったんだ。

「ありがとうございます。」

諦めなくて良かった。
< 33 / 110 >

この作品をシェア

pagetop