闇に堕ちる聖女 ―逢瀬は夢の中で―
プロローグ
 レスカーテはいつも、ああこれは夢だ、と、自覚していた。けれど夢でも己の意志で見ることはできず、それだけにその夢を見た時はずっと見ていたいと願った。

 そこは暗く冷たい場所だった。ひんやりとした石畳。陽の光は指さないというのに、ほのかに明るいのは、レカーテの眼前にある巨大な玉座が光っているからだ。

 玉座にのった大きな結晶の内部には液体に包まれて丸くうずくまる男が胎児のように眠っている。頭に二本の角を生やし、閉じた睫毛は永い。漆黒のローブが男を身体包んでいる。

 そして、何度も何度も同じ場面で目を覚ます。うずくまる男が顔をあげて、レスカーテの存在に気づき、手を伸ばす。

 ほんの一瞬視線が交差して、レスカーテは目を覚ましてしまうのだ。

 始めてこの夢を見たのは、幼い頃、高熱を出した時だった。そのせいか強く印象に残っている。黒衣の、角を持ち、結晶に封じられたあの姿が、今では魔王トルトゥーラのものなのだと『知って』いる。

 レスカーテがトルトゥーラの夢を見る理由も。

 魔王の封印が解ける日は近い。

 レスカーテが、再びその封印を結び直す為に宮殿へ向かう日まで。
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