私の好きな彼は私の親友が好きで

その、話がグループのメッセージを賑わしたのは2か月前。
同級生が授かり婚をした。披露宴はしないから、有志で祝おうと・・
大学を卒業してから省吾とは連絡を取り合い、呑んだりしていたが
同級生とは疎遠になりつつあった。
どうして、それに出席しようと思ったのかは解らない・・
そこで、5年ぶりに、なんの期待もしていな会場で会いたかった美月を
見かけた時には心臓が止まりそうになった・・

俺は直ぐに美月を見つけたのに・・・彼女は俺を見つけない・・
この場所に俺が居るとか考えないのだろうか?
彼女はキョロキョロする事も無く桐谷さんと話し続けている・・
それに、彼女の周りには誰彼構わず引っ切り無しに話に行き、
その姿が見えなくなる。
女子だけでなく男子も話しかけている・・

「美月は昔から男子学生に人気があったよ。お前だけが気付いていなかった」
「そうなんだ・・」
「俺達と居たからね・・それに美月は鈍感だから・・」
「こう見ると、美月は桐谷さんと本当に仲良かったんだね」
「そうだな・・俺ですら自分の方が美月と仲が良いと思っていた
けれど、ちがったんだな。確かに俺は桐谷さんに好かれて居ないからね。」
「俺も好かれてないわ・・・」
クククと笑うが・・二人とも違う意味で少し虚しかった。
仲良かったのに・・今は距離がある事が・・あの輪に行けない
疚しさが・・

結局、見計らっていたタイミングなんて訪れず、会は終わり、二次会に
行く者、帰宅する人でバラケている店外に2人で出た。

「亮介!」懐かしくて、焦がれていた声に嬉しくて泣きそうになる。
「亮介、省吾!」彼女は桐谷さんと2人でこっちに向かってくる・・
多分、省吾も同じ気持ちだっただろう・・
「2人とも来ていたんだね・・彩が教えてくれなかったら
気が付かないで帰る所だったよ。」

そう屈託なく笑う笑顔は、俺達を大学時代に一瞬で戻った錯覚に落ちる。

「美月、戻っていたんだね・・」その言葉の裏にある俺の恨み節・・
「うん。1年で戻されちゃった・・」
「1年?」
「そ、父が迎えに来てね・・日本に一旦戻らなければ仕送り停止って
脅されて・・」
そう言って笑い桐谷さんに
「ね~~」と笑う君は桐谷さんとは連絡取っていたんだね・・
その事実に俺も省吾も少なからずショックを受けた・・
「こ・・」これからと言おうと思った時に美月が
「亮介、あの当時、亮介の事が好きだった。」と
真直ぐな瞳で言われた・・・
「俺も・・」と言う前に・・
「好きだった人の幸せを漸く祝える・・亮介、陽菜と幸せにね。
好きな人と居られる幸せを・・おめでとう   省吾も元気そうで
良かった。又、会えたら良いね」

美月が何を言っているのか解らなかった・・理解するのに時間が掛かり、

「じゃあ、迎えが来たから・・帰るね  バイバイ」

彼女はそう言って俺達を通り過ぎた・・振り返ると
背の高い男性に駆け寄り、その腕の中にスッポリ収まった。
瞬時に美月の頭にキスを落としていた・・一瞬だけ・・
その男性は桐谷さんとも二言三言会話し、当たり前の様に美月の腰に
手を廻し、高級なドイツ車の助手席を開け、美月が座るのと同時に
閉めた。そのドアの音は俺達の仲が終わった音に感じたのは
自分だけだろうか・・
その一連の流れは美しく、映画のワンシーンの様に繰り広げられる
シートに座り、彼女の脚が地面から車に吸い込まれる時に
ピンヒールの赤い靴底が自分の知らない美月を象徴している。
その男性は自分が運転席に座ると、助手席のシートベルトを締めながら
美月の唇に自分の唇を合わせた・・それを受けいれる美月
あっという間にテールランプを茫然と見送る俺達の前に桐谷さんが
憐みの瞳で戻ってきた・・・
何も言えない自分に変わり省吾が
「今の人は?」
「美月の旦那様」
「え、美月結婚したの?何時?」
「イギリスに行ってから1年半後位・・」
「玉の輿だね・・」
「違うよ・・・美月は元々あんな生活だよ・・」
「え・・・」
「美月は君たちが思っている以上にお嬢だよ。
美月のお母さんは洗濯機も掃除機も使った事が無いと思うよ・・」
「美月の結婚て・・」漸く声が出たけれど続かない・・
「お見合いだよ。」
「じゃあ、政略結婚?」怒りに満ちた声が自分から出ているのに驚く。
「それとも一寸違う・・」
「じゃあ、なに?」桐谷さんを責めるつもりは無いけれど、声は棘棘しい
「帰国した年の12月24日にお見合いしたの。その時は未だ石原君の事が好き
だったと私は思う。美月は自分の本当の想いを伝えるつもりで25日に君の
部屋を訪ねようとしたんだけれど・・駅前のコンビニで陽菜に会ったらしくて・・
それで、陽菜に石原君と付き合っていると匂わせられて・・・
君の部屋に行く前に打ちのめされたの・・
そのショックから救い出してくれたのが旦那様。
彼はその時で既に10年も美月に片思いしていたみたいで・・だから
政略結婚とは一概には言えないと思うよ・・」
「俺は陽菜とは付き合ってない・・」
「私も、もしかした陽菜の戯言かも・・と思ったんだけれど、確認する術も
無かったし、その話を聞いた時には美月は、旦那様に惹かれていた・・
だから、むやみに陽菜の嘘とは言わない事にしたの。
結果的には嘘だったみたいだけれど、私はその判断を悔やんではいない。」
「そんな~~」崩れ落ちそうになる・・この憤りをどうしたら・・
「石原君が文句を言いたくなるのは解るけれど、それは美月には向けないで。
美月は充分傷ついたから・・」
そう,言って彼女は二次会の集団に合流していった。
< 101 / 105 >

この作品をシェア

pagetop