私の好きな彼は私の親友が好きで
帰国

1年後

日本に降り立った美月。


本当は帰って来たくなかったのだが、両親に
大学を卒業しないと、この先の留学費用は出さないと言われ、
卒業する為だけに、日本に1年間だけ戻る事に決めた。
思いの外、イギリスの風土が自分に合い。
少し、田舎に行くと日本人は全くおらず、
それが心地よかった。
不味いと形容され易い食事も、もともと
食に拘りが無いので問題なかったし、食事より
お菓子が好きな私にはアフタヌーンティーの風習に
嵌った。
ホストファミリーのママが焼いてくれるスコーンと
クロテッドクリームの相性の良さに歓喜し、
暫くはこれしか食べなかった。
ママとスコーン作りもし、家庭ごとに味が違うのも新鮮だった。
何時か、私も自分の子供と一緒に作りたいと思い、
その時 少し、亮介を思い出して泣いた。
そんな時以外は亮介を、日本を、思い出す暇が無かった。
万全だと思っていた自分の英会話のスキルは
残念ながら、そこまででは無かった。
ホストファミリーの人達は慣れているのか、
一生懸命に意思疎通の為に努力してくれたが、
街中や、学校ではそれではダメだと、直ぐに現実を突きつけられた。
大学が始まる9月までの間に、英会話スクールに通うという、
間抜けな自分に落ち込んだが、
ママが「皆、そうよ。ここで逃げて帰るか、踏ん張るかで人生は変わるわ。」
と言ってくれ、自分だけでは無いのだと思い、死ぬほど勉強した。
もしかしたら、大学受験より勉強したのかもしれない。
だから日本に置いてきた想いを、振り返る暇が無かった。
結果的にはそれが良かったし、
日本には帰れない、と言う思いも強く、踏ん張れた。
少し余裕が出てくると観光もしたし、美術館には沢山通った。
ガイドブックには載っていない美術館にも足を運び、
ウィンブルドンも観戦した。
そして雨のイギリスも悪くなかった。
このまま日本に帰るのは止めようか、と思い始めた頃、
その思いを察したように、父が仕事の出張の合間に
イギリスを訪れ、私に会いに来た。
会った瞬間に、父が何を話しに来たのか半分、察した。
食事の後、お茶を飲みながら父は
「取り合えず、一旦日本に帰国し、大学を卒業しなさい。」
「このまま、残りたいです。」と口にはしたが
それが叶わない事は、今までの人生で理解していた。
「日本の大学を卒業するのが大前提だ!
どれも中途半端で終わらせるな。卒業しても、
イギリスに戻りたいと思えるなら、認めよう。
このまま残るなら仕送りは止める」
はい。私には選択権はありませんでした。
ホストファミリーには、1年後に必ず戻って来ると
約束して帰国した。
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