片翼を君にあげる①

義父であるヴィンセント様は血の繋がりを感じない程にレノアを大切にしていると聞くが、ドルゴアとの友好関係にヒビを入れるような事はする筈はない。
例え実の愛娘であったとしても……。愛娘が本妻ではなく、ただの大勢の側室の一人として扱われようと、名家の主人ならば普通は拒まず差し出してしまうだろう。


「わたし、コウくんのおよめさんになる!」

「あ〜!チヨちゃんずるい!
あたしもコウくんのおよめさんになる〜!」

街中で聞こえてきた、子供達の会話。
ふと目を向けると、一人の男の子を間に挟んで二人の女の子が左右の手を引っ張り合っていた。
その光景を見て、自分の子供時代を思い出す。

俺達も、昔はよく"おままごと"したっけ。
俺がお父さん役になると、あの女の子達みたいにランとレノアがお母さん役をやるんだって張り合ってた。
終始がつかないからジャンケンで決める事になるものの、いつも負けた方が拗ねるからその後のフォローが大変だったな。
懐かしい昔を思い出して一瞬プッと笑みが溢れる。

……が。
すぐに何とも言えない、やるせない気持ちが押し寄せて来て……。でも、どうにも出来ない現実から逃げるように、俺はその場を駆け出した。
真っ直ぐ真っ直ぐ走り、商店街を抜けて自宅に帰ろうと角を曲がる。

その瞬間ーー。

「《っ……見付けた!!100点満点ッ!!》」

ッーー……えっ、?!

不思議な言葉(ドルゴア語)が聞こえたと思ったら、すれ違った"ある人"に、腕をガッと掴んで止められる。するとそれと同時に、眼帯で塞いでいる筈の左瞳にズキンッと痛みが走った。

「!ッい……っ、ぅ」

その痛みは、思わず掴まれていないもう一方の手で左目を押さえてしまう程で……。
激痛はほんと一瞬だったが、その後もまるで目が心臓になったかのように、ドクンッドクンッと鈍い痛みが続く。
まるで、俺に"何か"を訴えているかのようにーー……。
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