片翼を君にあげる①
***

私は、ツバサ君の父親であるヴァロン殿に初めて会った日の事を思い出した。

あれは、そう15年程前の事。
あの時私はまだ30歳で、立派な父からこのアッシュトゥーナ家を継ぐか否かを迫られている人生で最大と言っていい程に悩んでいた時期だった。
大学を卒業してから父に付いてずっとこの時の為に学んできた筈だったのに、いざとなると"自分が先頭に立ってやっていけるのか?"と不安になり、重いプレッシャーに押し潰されそうだったんだ。

だから、この日も行きつけのBARで飲んでいた。
すると……。

「お〜!すげ〜所だな」

「ちょっと、プライベートとは言えこういう場所では言葉遣いには気を付けて下さる?」

カウンター席からふと入り口に目を向けると、そんな会話を交わしながらひと組のカップル……。いや、年齢や大人っぽさからして夫婦だろうか?と言う人達が入ってきた。

なんて、綺麗な人達なんだろうーー。

私はその二人に目を奪われた。
男性は白金色の髪と瞳。スラッとした長身で、身体の型が美しく出る黒のジャケットと細身のグレーのパンツを見事に着こなした、同性の私でも憧れる男性。
女性は赤茶色の髪と瞳。彼女もまたまるでモデルのように身長も高く、スタイル抜群。ピッタリとした白いニット生地のタイトワンピースを纏ったとても美しい女性だった。

「すみません。お隣失礼してもよろしいですか?」

「!っ、……あ、はい。どうぞ」

つい、見惚れてしまっていた。
いつの間にか私の近くに来ていた二人。私の隣のカウンター席がちょうど二つ空いていた事から、女性が尋ねて来てハッとする。
了承すると私の隣に男性が、そしてその隣に女性が座った。あまりジロジロ見てはいけない、と顔を正面に向けた私は再び自分の世界に入り込もうとする。
……が。

「じゃあ、私はそのおすすめのワインで。
……貴方は?」

「ん〜……俺は、ミネナルウォーターでいいかな」

ーーッ?!

思わず「ブッ」と口に含んでいたウイスキーを吹き出しそうになった。
ウェイターのオススメを聞いた女性は、その雰囲気に合った赤ワインを注文したのに対し、男性はまさかのミネラルウォーター。おまけに……。
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