片翼を君にあげる①

たくさんの言葉なんて、いらない。
その、たった一文だけで充分だった。

待ってる。
ツバサが、私を待っててくれているーー!!

まるで空っぽのグラスに水が一気に注ぎ込まれたように、私の心も嬉しさでいっぱいになって感情が瞳から涙になって溢れた。
嬉しくて嬉しくて仕方ないのに、笑顔よりも涙が溢れてきてしまう。

会いたい、会いたい、会いたい!!

「っ……私、ッ……行かなきゃ!」

止めどなく溢れてくる涙を手で拭いながらその場を駆け出そうとすると、レベッカが私の前に立ちハンカチと手鏡を差し出した。

「ただ今落ち着いてお会い出来る場所を確保しております。あちらの執事と連絡をお取りしますので、まずは涙をお拭き下さい。
せっかくならば、お綺麗な姿でお会いしたいでしょう?」

「あっ……。っ……そ、そうね。ありがとうっ」

レベッカに差し出された手鏡に映る自分を見て我に返ると、頬がカァッと赤くなるのを感じる。
そういえば、場所が分からなかった。
それに涙に鼻水に、酷い顔になっていた自分。これにはさすがに優しいツバサでも見たらドン引きされてしまうかも知れなかった。


心を落ち着けて椅子に座り、私はヘアメイクをレベッカに直してもらいながら向こうの執事から連絡がくるのを待った。
その間、会場で久々に目にしたツバサの姿を思い出す。

最後に会った時は私の方が高かった身長がすっかり追い越されてしまっていた。
スーツを着てビシッとした姿は、お父さんのヴァロンさんにそっくりだったな。
抱きとめてくれた腕は力強くて、胸も広くて、手も大きくなってた。
声は聴けなかったけど、ツバサに名前を呼んでもらえたら、私は……。

そんな事を考えていると、レベッカの胸ポケットに入っている小さな電話ーポケット電話ー。通称ポケ電が鳴った。
ポケ電に届いたメッセージを確認するレベッカの様子をドキドキしながら伺うと、それに気付いた彼女が優しく微笑む。
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