独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
私は知らずうつむく。化粧を施し、髪をあげた自分の顔は、あのとき鏡で見たきりだ。トイレでは鏡を見ないようにし、さきほど帰宅した時に、髪の毛だけ下ろしていつものひとつ結びにしてきた。
あまり見ていたい顔ではなかった。

「初子どうした?」
「いえ」
「もしかしてなんだが、初子は容姿を褒められるのが嫌いか?」

驚いて思わず顔を上げてしまった。過剰反応をしたことを恥じて、すぐに目をそらす。

「最初の初子の写真をもらったときも、随分地味にしているなと思った。初子本人を見たら、顔立ちは愛らしいし、磨けばもっと光るだろうなと思ったよ。しかし、おまえはどうも地味にしておきたいような様子だ。今日も着飾った姿は美しかったというのに、浮かない顔をしていた」

どうしようか。しかし、連さんの言葉に嘘をついたりごまかすのも申し訳ない気持ちになった。

「……母に」

私はおずおずと呟く。

「母に似ているな、と。幼少時に別れたきりですが、少し苦手だったもので」

連さんは私の家族の事情をどこまで知っているだろう。頭取は当たり障りのないことしか言っていないかもしれない。
一時的な契約妻なのだ。ほとんどの人間が知らない出自を言う必要はない。
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