『義賊の女王』-世界を救う聖女となる-
「行くのね……」

 ため息が出てしまう。
 私が家に戻ると、一気に外が騒がしくなっていく。
 きっと彼が号令を発し、戦の準備が始まったのだろう。

「何を焦っているの? 何か理由があるのかしら?」

 いつも冷静な感じのするラバルナにしては珍しい行動だと思う、確かに頭に血が上ると猪突猛進なところもあるけれど、それはあくまで個人的なことであり、全体を動かすほどでもなかった。
 窓からゾロゾロと動き出す兵たちの姿を見ながら悩んでいると、急に戸が叩かれた。

「誰?」

「……えぇ、あぁっと俺だ」

 ゼイニさんの声が聞こえてくる。 
 私は急いで鍵を開けると、少し恥ずかしそうに部屋へ入ってきた。
 彼の後ろには、戸惑った表情をした私の部隊に所属している人たちも控えている。

「どうかしたの?」

「どうかしたの? じゃないだろ、いつも積極的なレイナにしては珍しく反抗的だから心配しているんだよ」

 こちらの目を見ずに話しているが、私の顔そんなに変だろうか? ちょっとショックだが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

「だって、何か嫌な予感がするのよ。それにラバルナは泉には手を出さないような方針だったのに一晩で考えを変えて、これだけの兵員を動かすなんて考えにくくない?」

「確かに、言われてみれば変だな。俺にもイルルヤンカシュの防具を急ぐようにって言ってきたが」

 お互い彼の異変に気が付いており、何かあると考えていた。
 
「レ、レイナ様」

「どうかしたの?」

 部屋の外で控えていた彼らを招きいれると、恐る恐る私に対し尋ねてくる。

「我々はいったいどうしたらよいのでしょうか? 他の隊に合流でも?」

「それはダメ、私に考えがあるの。ゼイニさんもラバルナたちに合流するの?」

「いや、俺は今回は武器の製造や調達が主体で前回のように隊を率いる感じではないな……」

 それなら、今のところ私に協力してくれるように頼むと快く引き受けてくれた。
 現状のこちらの戦力は想像以上に膨れ上がっている。
 周辺の村々からも集まるとジャマル兵だけで軽く百を超える規模になっていた。

「数だと勝てそうだが、地の利的な意味合いではかなり厳しいだろうな、それに相手は腐っても正規兵」

 そうだ、以前襲われたときも思ったが、正規兵は想像以上に手ごわい。
 それに、教王国から援軍が無いって言いきっていたが、もし万が一背後を塞がれたらそれで終わってしまう。
 私たちの持てる兵員をかなり動員するだろう、一度の大きな敗北は再起不能に陥る可能性すらある。

「それで、聖女様は今回もなにか知恵があるのかい?」

「その聖女様ってやめてもらえない? 無いこともないけれど、ちょっと大変かも……」

「なぁに、少しでも良い方向に風が吹くなら俺は協力を惜しまないよ」

 後ろの兵たちも大きく頷いてくれた。
 心強い、だったら今回もイチかバチかやってみるかしない。

「わかったわ、ありがとう」

 私は周りに気を使いながら、思いついた作戦を話し始める。
 今回もうまくいくなんて考えにくいけれども、動かなければ風は味方してくれしない。

「おいおい、こりゃかなり厳しいじゃないか」

「ですが、ソマリ様なら可能かもしれません‥‥‥」

 ゼイニさんが頭を抱え、兵たちも唾を大きく飲み込んでいる。
 それだけ綱渡り状態だが、彼らを救うにはこれしか方法がないかもしれない。

「できそう?」

「できそうって言うか、やらないとダメだろ?」

「我々もさっそく動き出してみます。まだ腰の重い村ならいくつもありますので」

「ありがとう、それじゃぁこれを持っていって」

 私は部屋に飾ってあるソマリを模した旗を手渡した。
 大切に抱きかかえ、一礼すると外へと出ていく。

「ありがとうゼイニさん」

「なんだよ急に、お礼はうまくいって無事に帰ってこれたらだよ」

 そういって、私の頭をポンっと軽く叩くと急いで兵たちの後を追って出ていく。
 不意打ちに一瞬んポカンとしてしまったが、こちらも黙ってはいられない。

「動かないと」

 一歩踏み出すと、熱がこもる世界へ飛び出して行く。
 忙しく戦の準備が進められる周りから抜け出し、私のジャマルにまたがると一気に砂漠を駆けて始める。
 後方から村の見張りをしていた五人のうち二人がジャマルで追いかけてきた。

「レイナ様! どちらへ⁉」

「みんなを助けによ!」

 私の答えをきいた彼らは一瞬意味がわからない顔をしたが、お互い頷きあって確認し終わると。

「我々もお供します!」

 笑顔で答えると、ジャマルのお腹を蹴って一気に速度を増した。

『あら、随分慕われているのね』
「ソマリも慕われていたんじゃないの?」
『そうかしら? 私に近づくのって全員、お腹に何かを抱えていたような気しかしなかったなぁ』
「それは酷くない? 全員がそうだったの?」

 彼女からの言葉は返ってこない。
 少しは信用してもよいのではないだろうか? 私は今まで味方は殆どいなかった。
 だけど、今は違う……私の背中には多くの仲間がいる。

「救いたいの」

『頑張って、あなたならできるかも』

 相変わらず他人事のように話しているが、彼女にも協力してもらうつもりだ。
 だって、あなたはこの世界の初代聖女様なんですから。
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