『義賊の女王』-世界を救う聖女となる-
「う……うるさい‼」

 ビクっと、全身が震えて動けなくなった兵士たち。
 私を見つめながらブルブルと震えだしてしまった。

「え? あ、いや、違うの……えっと……」

 先ほどまで勇ましく魔人と闘っていた人たちとは思えないほど怯えているが、なによ? もしかして、私を魔人より怖いものだと思っているの?
 
『おいおい、聞いたか? 随分と大声出すじゃねぇか』
『レイナったら、いつも冷静な感じに見せて、実は怖い系なのかしら?』

 いやいや、私はあなたたちに対して叫んだのであって、けっして仲間に向かって言ったのではない!
 しかも、先ほどまで言い争っていた感じがしたのに、急に結託するなんて卑怯じゃない? 意味がわからない。
 
「レ、レイナ様?」

「あ、えっと、うん! 大丈夫、気にしないで――それよりも、早くここを抜け出しましょう、敵の気配はもう無いから私だけ進みます。怪我人の保護と外からやってくる仲間の案内をお願い」

 少し躊躇していたが、全員が敵の気配を感じ取っていないことや、この不快な空間と怪我人が心配になり私を残して外へと向かっていく。
 よし、ようやく独り言をブツブツと発しても誰にも不審に思われない環境ができた。
 そして、私の中に入ってきた存在に心当たりがあるので、名前を読んでみることにした。

「イフリートよね? 私の中に入って助けてくれたの」

『おうおう! そうよ。この世界を救ったイフリート様とは俺のことだぜ‼」

 なんだか、想像していた存在とはかけ離れているが、段々疑いたくなってくる。

「凄く助かった、ありがとう……それで、いつ出てきてくれるのかしら?」

『そうよ、この場所は私だけの特等席なんだから、出て行ってよ‼」

 ソマリが何か言っているが、いや、そもそも私の体なのだが……。

『おっと、これは失礼――だがしかし! 残念なことを今から伝えるぜ、それは不可能だ』

 な、なんですって⁉ 不可能なの? 私が驚いていると、イフリートは淡々と経緯を説明してくれた。
 昔の大戦により疲弊したイフリートは、全ての力を使い魔人たちをこの地へと封印し、現在に至るそうだがその過程で随分と力を無くし、今回の騒動で残っていた力を魔人たちに使ってしまい消えかかっている。
 
 そこへ私たちが駆け付けたので、最後の力を使って私に宿り敵を倒したそうで、外に出てしまうと存在自体が消えてしまうそうだ。
 そうすると、封印されている魔人たちが一斉に目覚め暴れまわってしまう。

「なるほど……だから、私の中にいるってこと?」

『そういうこと、だが、いずれは消えてしまう予定だったが、これならまた当分の間は封印も大丈夫だろう。それに、お嬢ちゃんの中にいると不思議と力が戻っていく気がする。もちろん、すぐには無理だ。おそらくかなりの時間が必要だろう』

 つまり、私の中にはソマリとイフリートが共存? する形になってしまった。
 
『えぇー! そんな、こんな意味不明なヤツと四六時中一緒なんて嫌よ‼』
『へっ! こっちだってレイナのような美人さんなら良いが、じゃじゃ馬と一緒なんざまっぴら御免だがしょうがないだろう、諦めな』

 落胆するソマリの感覚が伝わってくる。
 なんだか随分と賑やかになってしい、ちょっと疲れそうだ。

「でも、あの力ってあなたの?」

『そうだ、力はほぼないが仮にもイフリートを宿したんだ、力が仕えても不思議じゃなかろう?』

 ドヤッ! みたいに言われても困ってしまう。
 だけど、正直あの力は凄い。剣も本来なら折れてしまうはずなのに耐えられたので物理的にも強力になっているのだろう。
 ソマリの剣術にイフリートの力が合わさった形になった。 

「そう、なら少し騒がしいけれどよろしくね……この場を離れても封印って有効なのかしら?」
『それは問題ない、俺様が存在していればここは大丈夫だ』

 それは嬉しい、この場所に人々を集めてコミュニティーを形成すれば教王国に対してかなり有効な場所になるだろう。
 それに、砦もあって整備された場所だから一から築いていく心配もまるでない。

「……ナ様!」

 誰かの声が聞こえてくる。
 私は剣をしまい、疲れた足に気合をいれて歩いて行く。

「レイナ様! ご無事でしたか!」

「えぇ、皆様もお疲れ様です」

 ファルスさんが仲間を引き連れて駆け付けてくれた。
 外の魔人もほぼ駆逐され、このイフリートの泉は私たちの地となった瞬間だった。

「そ、それでイフリートは無事でしたか?」

「えぇ、無事みたいよ」

 笑みを漏らしながら歩いていく、不思議そうな表情をしながら後をついてきてくれる。
 外にはラバルナとゼイニさんが心配そうな顔をしながら私を受けれいてくれた。
 
「レイナ! 大丈夫だったのか?」
「おいおい、ボロボロじゃないか」

 足がもたついて、倒れそうになるのを二人の男性が支えてくれる。
 どちらも、顔が砂まみれで酷く疲れていた。

「ふふふ、二人とも酷い顔よ」

 お互い確認し合って、ラバルナが私に言った。

「それはレイナもだよ」

 
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