契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
「さっき渚が言った通り米ももちろん自家製だ。この時期だから新米じゃないけどな。梅干しは、昔ながらのやり方で、うちの米によく合うようにしてある。味噌は確か豆の産地にもこだわって……」

「よ、よ、呼びます! 呼びます!」

 渚は慌てて宣言をして味噌を取り返そうと手を伸ばす。
 和臣が、渚が届かないギリギリの位置に味噌をキープしながら、眉を上げた。
 渚は息を吐いて、唇にキュッと力を入れる。そしてゆっくりと口を開いた。

「か、和臣さん……」

 言い終えて、またホッと息を吐く。
 頬が赤くなるのが自分でもわかった。
 彼の名前を口にするのはこれが二度目。
 でもなんだか、初めての時とは少し心境が違っているような心地がした。
 さっき頭に浮かんだ、もし自分が本当の結婚をするならば、彼みたいな人がいいなという想いがまた頭に浮かんだ。
 和臣が、

「よくできました」

と満足そうに微笑んで、渚の手に味噌の容器を握らた。

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