契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
帰省
「ねぇ、渚ちゃん。渚ちゃんは和臣君のどういうところが好きなの?」

 久しぶりに帰省した和臣の実家の食卓で、兄の妻、みゆきが上機嫌で渚に問いかける。
 その内容に、和臣は飲んでいたビールを思わず吹き出してしまいそうになった。

「姉さん、変なこと聞かないで下さい」

 和臣は少し慌ててみゆきを制するが、彼女は、

「あらいいじゃない」

とどこ吹く風だった。
 揃って取った夏季休暇に突入したこの日、和臣と渚は、和臣の田舎に帰省した。
 東京から田舎までは新幹線で約二時間。朝から出発し、昼過ぎに着いて、自己紹介を済ませたあと、和臣は渚を連れて家族の仕事を見て回った。
 初めは少し緊張ぎみに見えた渚は、でもすぐに目を輝かせ、あれこれ尋ねているうちに、すっかり家族に打ち解けた。
 そして、家族揃って夕食を囲んでいるところでの、この質問である。
 見るとほろ酔いで上機嫌の義姉の隣で母親の方もにこにこして渚を見ている。
 和臣は心の中でため息をついた。
 プライベートなどないに等しいこの辺りで、新婚夫婦に浴びせられる質問としてはまぁこのくらいは普通だ。
 だが本当の夫婦ではない、ましてや和臣のことをそのような目で見ていない渚にとっては、答えようがない質問に違いない。和臣の向かいの席で目を白黒させている。
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