契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
姉の提案
「わぁ、大漁ね」

 大きな発泡スチロールの箱を覗き込み、渚は声をあげる。中には大量のカサゴが、まるで釣り上げられたのが不満だとでもいうようにぎょろりと渚を睨んでいる。
 渚はふふふと笑って、

「美味しく食べてあげるから許してね」

と呟いた。
 隣で姉の千秋(ちあき)がため息をついた。

「助かるわ。渚が来てくれて」

 瀬名のランチ会の週の土曜日、渚は自宅からほど近い姉夫婦のマンションに来ていた。
 義兄の神倉祐介(かみくらゆうすけ)が趣味の釣りで大量の魚を持って帰ってきたと姉に泣きつかれたからだ。二年前に結婚をして実家を出た姉は、美人で優しくて社交的、でも料理が苦手なのだ。

「こんなトゲトゲの魚ばっかりたくさん持って帰ってきて……」

と困り果てたように文句を言っている。

「だいたい、釣るなら捌くまでしてくれなくちゃ困るのよ」

 そう言って夫をじろりと睨む。
 リビングのソファに座る祐介は千秋の声が聞こえているはずなのに知らないフリだった。
 渚はおかしくなって、くすくすと笑った。
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