契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
愛美の逆襲
「佐々木さん、ちょっといいかしら」

 佐々木総合法律事務所の事務室で声をかけられて、渚はパソコンから顔を上げた。
 先輩である川西愛美だった。
 時刻は午後六時半を過ぎた頃、常に多忙な弁護士陣は別として、事務職員は極力残業をしないようにといわれているから、事務室はもはや人もまばらだった。
 結婚のことが父にバレてから、一カ月が過ぎた。
 相変わらず渚は和臣のマンションから仕事へ行き、学校へ通っている。
 父とはあれから一度も話をしていなかった。もともと仕事場ではほとんど関わらない生活だったから、表面上は、渚の生活はなにも変わりはない。
 あの日、必ず父を説得すると言った和臣からは、その後どうなったかの話を聞くことはなかった。
 おそらくは難航しているのだろうと渚は思う。あの日の、様子からそう簡単に父が納得するとは思えなかった。
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