契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
「父が……?」

 渚は眉を寄せた。
 今父が来ているというだけでも十分意外なのに、二ヶ月に一度とは……?

「風を通さないと、建物が悪くなるものね。商店街としても荒れたお店があると困るからとてもありがたいわ」

 微笑むおばさんに頭を下げて、渚はカタヤマ弁当への道を急いだ。
 放っておいたら建物は痛む。カタヤマ弁当は住居一体型になっていてかつて祖母はそこに住んでいた。
 でも今は誰も住んでいないのだからそのままでは荒れてしまう。
 父はそうならないようにたびたびここへ来ていたという。

 でも誰も再開する予定がないはずの弁当屋を……?

 足速に進む渚の視線の先にニコニコマークの黄色い看板が見えてくる。
 カタヤマ弁当は当時のままそこにあった。いつもはぴたりと閉じているシャッターが今日は少し開いている。
 渚は肩で息をしながらゆっくり近づいて、そのシャッターをくぐった。
少し薄暗い中に父はいた。
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