おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~

「はい、素敵な方だと、思います」
「そう!やっぱり?」

シルヴィアは嬉しそうに両手を合わせて声を上げた。
その声音が思っていた以上に弾んでいることに、リサは気付いてしまった。

「私もね、ローラン…あの、ジルベール様についてきた従者に聞いたのだけど、ジルベール様は騎士団にいらっしゃるからとても硬派で、口数は多くないけど優しい方だとおっしゃっていたわ」

シルヴィアの鈴を転がすような声で紡がれるジルベールの話に、リサの胸が軋むように痛んだ。

あんなに結婚に否定的だったシルヴィアのジルベールへの評価は上々のようだ。
リサが彼女のふりをしている間も、従者にジルベールの人となりを聞いたりと、しっかりこの入れ替わりを活用して花婿に相応しいかを見極めていたらしい。

先程バラ園でシルヴィアとローランを見かけたのを思い出した。あの時に彼からジルベールのことを聞いたのだろうか。

ジルベールはシルヴィアの花婿候補としてこの城を訪れている。シルヴィアがそうすることは当然で、その為に今リサはこうして重いドレスを身に纏っているというのはわかっていたことなのに、気持ちがどんどん沈んでいってしまう。

「そう、なんですか…」
「ええ。どんな相手にも分け隔てなく接する大きなお心もお持ちのようだし。ちょっと女性が苦手なようだけど…、彼ならきっと幸せにしてくださるわ」

シルヴィアは頬をピンク色に染めて興奮気味に話す。
リサの目には、シルヴィアの心はもう彼との結婚に向けて一直線に走り出しているように見えた。
この宴が終われば、きっと入れ替わっていたことをジルベールに打ち明け、許しを請い、その後に父親同士を通じて結婚を受け入れ、婚姻を結ばんとするのだろう。

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