おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~
リサはその様子を近くで羨ましそうに見ていたシルヴィアに『何か一緒にやってみますか?』と聞くと、シルヴィアは嬉しそうに満面の笑みで頷いて、リサとモーリスが剪定し終えたバラの株元から少し隙間を開けて肥料を撒いていく。
こざっぱりしたワンピースにコート姿のリサと違い、シルヴィアはビロードのケープにドレス姿。ふんだんにあしらわれたフリルやリボンを汚しながら土を弄る様は、公爵や家令、メイド頭が見たら卒倒してしまうかも知れないとリサは心配だった。
そんな心配を他所に、シルヴィアは自分で手入れをした花も葉もないバラの茎を見て満足そうに頷く。
『リサ!今年の春には今までで1番綺麗なバラが咲くわね!』
『ふふふ。はい、シルヴィア様。きっと』
こうしてどこの異国の子供かもわからない孤児だった自分を拾い、屈託なく土の付いた笑顔を向けてくれるシルヴィアが、リサはとても好きだった。
『まぁリサ、指から血が!』
バラの棘で刺してしまったのか、リサの小さな手の中指からわずかに血が流れていた。
『大丈夫です、このくらい。それよりシルヴィア様、そろそろお戻りになられないと叱られますよ』
『叱られたっていいから、その傷の手当よ!まずは綺麗に洗わなくちゃ。モーリス、あとは頼みます』
『承知しました、姫様』
『モーリス、ありがとうございました。また手伝いに来てもいいですか?』
『もちろんだよ。しっかり消毒しておいで』
シルヴィアは自分付きになった見習い侍女のリサの手を引っ張って城に入っていく。
そんな自分達の様子を、会議に出席するために父についてきたラヴァンディエ王国の15歳になる王子が大広間のテラスから見ていたことを、リサは今も知らない。