佳麗になりたい
 横断歩道を渡って二人が駅に近づいて行くと、電車やバスを待つ会社や学校帰りの人達以外にも、急な雨で駅で足止めされたのか送迎を待つ人達で、いつもより駅の構内や駅前のロータリー付近が混雑しているようだった。

「桂木さんはここで大丈夫ですか?」
「ありがとうございます。先程、身内に傘を持って来るようにお願いしたので」
 すると、駅の出入り口付近にいた麗華と歳が近そうな女性が、手を振りながら近づいて来たのだった。

「いたいた! お〜い! 秋斗(あきと)!」
 二人に近づいて来たのは、茶色に染めた髪を下ろして、白色のブラウスと黒色のロングカーディガンという、いかにも仕事帰りといった姿の女性であった。
 女性は透明なビニール傘を二本持っていたのだった。

秋穂(あきほ)、 すまない。頼んでしまって」
「本当だよ。もう……。傘を買って迎えに来いって言うから傘を探したのに、やっぱり来なくていいって言ってきて」
 秋穂と呼ばれた女性は、麗華の姿に気づくと綺麗に化粧を施した顔を傾げた。

「もしかして、和泉様ですか? さっき、うちのお店に来ていた?」
「そうですが。えっと、どちら様でしょうか……?」
 麗華が戸惑うと秋穂は小さく笑って、茶色に染めた髪を後ろで一つにまとめる振りをした。

「私です。明石です! 先程、私が担当しましたよね?」
「ああっ! 明石さんだったんですね! すみません。雰囲気が違うので気づきませんでした!」
 髪を後ろした明石は、とても年相応に可愛らしい雰囲気を醸し出していたのだった。

「お勤め先が秋斗と同じ会社と聞いていたので、もしかしたらと思っていましたが……。二人は知り合いだったんですね!」
 前回、明石に担当をしてもらった時に、仕事について聞かれて、麗華は会社名を話していた。それを覚えていてくれたのだろう。

 麗華が明石と話していると、秋斗と呼ばれた桂木が二人を見比べた。
「秋穂、先輩と知り合いだったのか?」
 明石は、「そうなの!」と親しげに桂木に返したのだった。
 その様子を見ていた麗華はハッと気づく。
(もしかして、明石さんの旦那さんって……)

 明石は結婚していると聞いたが、その相手は桂木ではないだろうか。
 桂木は顔立ちは悪くなくて、性格もいい。
 対する明石も、顔は化粧映えもあって綺麗で、優しい性格であった。
 そんな二人は、お似合いだと思ったのだった。

 二人を見ていると、何故か麗華の胸は痛くなった。
(どうして、こんなに悲しい気持ちになるんだろう)
 麗華は胸をギュッと押さえると、二人に向かって精一杯の笑みを浮かべたのだった。

「良かったですね。桂木さんも奥さんと合流出来て!」
 すると、二人は「はっ?」と声を揃えたのだった。

「先輩。俺が誰と夫婦なんですか?」
「誰って、桂木さんと明石さんが……」
 そこまで麗華が言うと、突然、明石が声を上げて笑い出したのだった。

「おい、秋穂。失礼だろう」
「ど、どうしたんですか!? 突然……」
 お腹を抱えて笑う明石の姿に麗華が戸惑っていると、「すみません」と明石は話し出した。
「和泉様には、私達が夫婦に見えましたか?」
「はい。仲が良さそうだったので……」
 すると、桂木は「先輩」と教えてくれた。

「俺と秋穂は、双子の姉弟(きょうだい)なんです」

「えっ……」
 麗華が言葉を失っていると、「そうなんです!」と、明石が目尻に溜まった涙を拭いながら教えてくれた。
「私が姉で、秋斗が弟なんです。で、私は結婚したので、名字が桂木から明石に変わったんです」
「そ、そうだったんですね……」
 勘違いした麗華は恥ずかしくなって、耳まで真っ赤になる。

「そうですよ! そもそも、誰がこんなパソコンオタクの根暗と結婚するものですか!」
 明石の言葉に対して、桂木も呆れたように返した。
「それを言うなら、誰がケバケバしくて、うるさい女と結婚するものか」
「なんですって〜!?」
 睨み合う明石と桂木を改めて見比べると、二人が似ている事に麗華は気づいたのだった。

 明石は麗華に顔を近づけると小声で話した。
「知っていますか? 秋斗の奴、仕事ではカッコつけてコンタクトレンズを使っていますが、いつもは黒縁眼鏡と黒ジャージ姿なんですよ」
「秋穂! 先輩に余計な事を教えるなよ!」
 顔を真っ赤にした桂木は、麗華の後ろに隠れた明石に向かって叫んだ。

「あら、秋斗だって気になる人がいるから、私に美容について聞いてきたのでしょう? 学生の頃は、あんなに顔の手入れやコンタクトレンズを嫌っていたのに」
「だから、先輩の前でバラすなって!」

 麗華を挟んで息の合った舌戦を繰り返す双子に、麗華は小さく微笑む。
(桂木さんの意外な一面が見れたのなら、自分磨きをして良かったかも)
 これも、麗華がエステティックサロンに通って明石と知り合いにならなかったら、見れなかっただろう。
 麗華は微笑むと、言い争う双子を止めたのだった。
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