辺境の貧乏伯爵に嫁ぐことになったので領地改革に励みます
夜の会議
城に戻ったのは夕方で、セルジュはそわそわと厩舎のほうを気にしていた。
「ドラゴンたちに会いたいなら、どうぞ」
「いいのかい?」
「その代わり、後で時間をください。これからのことを相談したいので」
わかった、と嬉しそうに頷いたセルジュは、馬の手入れを済ませると跳ねるようにドラゴンの厩舎に走っていった。
ああいうところは、まるで子どもだ。
アンジェリクはつい頬を緩めた。
一人で城に戻り、北側にある図書室に向かった。
エスコラの研究機関が認めただけあって、研究者としてのセルジュはとても優秀なのだと思った。それを示すように、城の規模や荒れ具合からは想像できないほど、図書室は整備されていた。蔵書の数も十分だ。
質素な木のテーブルに地図と紙を置いた。
肉や薪を買うのにも難渋していながら、高価な紙やインクがしっかりそろっていることにも感心する。
無駄にしないように石板に下書きをしながら、今日、領地で見聞きしたことをまとめていった。
パンとスープの夕食の後、セロー夫人に頼んで旅の間に着ていた生地の厚いナイトドレスに着替えた。
先に部屋に入って、ナイトテーブルに資料を広げて待つ。
何かを期待するように青い目を輝かせて、セルジュが寝室に入ってくる。
「アンジェリク、今日こそは……」
その美貌に一瞬、見惚れながら、アンジェリクはまず最初に、今日これからやるべきことをセルジュに告げた。
「今後の領地のあり方について、今から会議を行います」
「え、会議……?」
明日ではいけないのかと聞かれて、明日は明日でやることがあると答える。
視察に行くのだ。
領地は広いので、休みなく回っても二週間はかかる。
十二に分割した地図を示して、アンジェリクは日程を説明した。
続いて、今日の視察の結果から考えたことをセルジュに伝える。
その後は、街道の整備や橋の建設について。
領地の開墾に関すること。
話し合うべきことは山ほどあった。
長かった蝋燭が燃え尽きる頃、セルジュが心配そうに聞いた。
「アンジェリク、まだ続けるかい……?」
「考えることはまだたくさんありますが、今日はこのくらいにしましょうか」
セルジュがほっと息を吐く。
椅子から立ち上がって、アンジェリクに近づいてきた。
アンジェリクを立たせて、ゆっくりと顔を近づける。
ああ、キスをするのね……。
ぼんやりと思った。
嬉しい、と。
けれど、唇が触れる直前、アンジェリクの身体はふらりと傾き、すぐ脇にあったベッドに倒れ込んだ。
「アンジェリク? 大丈夫?」
セルジュの声を聞きながら、アンジェリクの意識は深い眠りの国へと旅立っていた。
「ドラゴンたちに会いたいなら、どうぞ」
「いいのかい?」
「その代わり、後で時間をください。これからのことを相談したいので」
わかった、と嬉しそうに頷いたセルジュは、馬の手入れを済ませると跳ねるようにドラゴンの厩舎に走っていった。
ああいうところは、まるで子どもだ。
アンジェリクはつい頬を緩めた。
一人で城に戻り、北側にある図書室に向かった。
エスコラの研究機関が認めただけあって、研究者としてのセルジュはとても優秀なのだと思った。それを示すように、城の規模や荒れ具合からは想像できないほど、図書室は整備されていた。蔵書の数も十分だ。
質素な木のテーブルに地図と紙を置いた。
肉や薪を買うのにも難渋していながら、高価な紙やインクがしっかりそろっていることにも感心する。
無駄にしないように石板に下書きをしながら、今日、領地で見聞きしたことをまとめていった。
パンとスープの夕食の後、セロー夫人に頼んで旅の間に着ていた生地の厚いナイトドレスに着替えた。
先に部屋に入って、ナイトテーブルに資料を広げて待つ。
何かを期待するように青い目を輝かせて、セルジュが寝室に入ってくる。
「アンジェリク、今日こそは……」
その美貌に一瞬、見惚れながら、アンジェリクはまず最初に、今日これからやるべきことをセルジュに告げた。
「今後の領地のあり方について、今から会議を行います」
「え、会議……?」
明日ではいけないのかと聞かれて、明日は明日でやることがあると答える。
視察に行くのだ。
領地は広いので、休みなく回っても二週間はかかる。
十二に分割した地図を示して、アンジェリクは日程を説明した。
続いて、今日の視察の結果から考えたことをセルジュに伝える。
その後は、街道の整備や橋の建設について。
領地の開墾に関すること。
話し合うべきことは山ほどあった。
長かった蝋燭が燃え尽きる頃、セルジュが心配そうに聞いた。
「アンジェリク、まだ続けるかい……?」
「考えることはまだたくさんありますが、今日はこのくらいにしましょうか」
セルジュがほっと息を吐く。
椅子から立ち上がって、アンジェリクに近づいてきた。
アンジェリクを立たせて、ゆっくりと顔を近づける。
ああ、キスをするのね……。
ぼんやりと思った。
嬉しい、と。
けれど、唇が触れる直前、アンジェリクの身体はふらりと傾き、すぐ脇にあったベッドに倒れ込んだ。
「アンジェリク? 大丈夫?」
セルジュの声を聞きながら、アンジェリクの意識は深い眠りの国へと旅立っていた。