辺境の貧乏伯爵に嫁ぐことになったので領地改革に励みます
「うまくいったなぁ」
「王をだましたようで申し訳ないが、我らには、結託して王家を倒そうなどという意思はこれっぽっちもない。重要なのはそこだからな」
「現王ならおわかりくださる。だが、我々も、忠誠を欠いていないことを示すために、少し領地を減らさねばな」
「それにしても、うまくいったなぁ」
キャッキャウフフと盛り上がる偉大なる公爵たち。
「アンジェリクたちはよく領地を治めているようだ。ヴィニョアの領長が嬉しそうに報告してくる」
「うちのバカ息子も、やっとドラゴンから卒業したか。親になるのだしな」
「そのことなんだが……」
コルラード卿はかすかに眉をひそめた。
「従僕たちがドラゴンを見たとしきりに言うのだとフレデリクから報告があった。一人や二人ではなく、恐ろし気に顔を引きつらせて、大きさや色などを詳細に語るらしい」
「ドラゴンなど、伝説の生きものだろう」
「セルジュはエスコラにドラゴンの研究に行ったんだろ。エスコラにドラゴンがいるというのは、本当なんじゃないか?」
「まさか」
フェリクス卿は一笑に付した。
「ところで、アンジェリクの身体は大丈夫なんだろうな。馬車の長旅で、万が一のことが……」
「フェリクス! そうだ!」
「な、なんだ」
「アンジェリクは、ドラゴンに乗って飛んできたと言っていた!」
ちょうどその時、バルニエ公爵の来訪を知ったアンジェリクが挨拶に来た。
「こんにちは。お義父様」
「アンジェリク。きみに父と呼ばれる日が来るとは、なんと嬉しい……」
挨拶の途中でコルラード卿が割り込む。
「アンジェリク、おまえ、ここまでドラゴンに乗ってきたとか言ってなかったか」
「乗ってきたわよ。空の上はとても寒いんだけど、馬車みたいに揺れないし、温かくしてきたから平気よ」
「ドラゴンが、いるのか?」
「ええ。飼ってるの」
「飼ってる?」
「三匹いてね。みんな、とても可愛いのよ。ここまで運んでくれた子はラッセって言って、一番大きい男の子。後はサリとブランカっていう女の子がいて、サリはラッセの奥さんなの。ブランカはまだ子どもだけど、お手伝いをよくするのよ。サリとラッセにはね、なんと、もうすぐ赤ちゃんが生まれるの!」
「へ、へえ……」
コルラード卿は、狐につままれたような顔で曖昧に頷いた。
「忙しいと思うけど、今度ブールに来てよ。ラッセたちを見せたいわ」
鱗の色や大きさを詳細に、実に嬉しそうに語るアンジェリクに、「うん」とか「へえ」とか返事をしながら、コルラード卿、そしてフェリクス卿の頭の中にも、ドラゴン、ドラゴン、ドラゴン……と、呪文のように同じ言葉がぐるぐる回っていた。
「そうだ。結婚式をしよう!」
突然、バルニエ公爵が叫んだ。
「王都で盛大にパーティーとパレードをして、その後、ブールに行こうじゃないか」
「フェリクス、おまえ、セルジュを勘当してるんだぞ」
「勘当は解く! 領地も好きなところを分ける。それで、王も安心するはずだ」
すっくと立ちあがり、宣言した。
「私は、堂々とアンジェリクの義父を名乗りたい。孫だって、抱きたいのだ」
「そ、そうか……。まあ、セルジュがボルテール伯爵だと王に知られた以上、そうするのが一番よいかもしれぬな」
「王をだましたようで申し訳ないが、我らには、結託して王家を倒そうなどという意思はこれっぽっちもない。重要なのはそこだからな」
「現王ならおわかりくださる。だが、我々も、忠誠を欠いていないことを示すために、少し領地を減らさねばな」
「それにしても、うまくいったなぁ」
キャッキャウフフと盛り上がる偉大なる公爵たち。
「アンジェリクたちはよく領地を治めているようだ。ヴィニョアの領長が嬉しそうに報告してくる」
「うちのバカ息子も、やっとドラゴンから卒業したか。親になるのだしな」
「そのことなんだが……」
コルラード卿はかすかに眉をひそめた。
「従僕たちがドラゴンを見たとしきりに言うのだとフレデリクから報告があった。一人や二人ではなく、恐ろし気に顔を引きつらせて、大きさや色などを詳細に語るらしい」
「ドラゴンなど、伝説の生きものだろう」
「セルジュはエスコラにドラゴンの研究に行ったんだろ。エスコラにドラゴンがいるというのは、本当なんじゃないか?」
「まさか」
フェリクス卿は一笑に付した。
「ところで、アンジェリクの身体は大丈夫なんだろうな。馬車の長旅で、万が一のことが……」
「フェリクス! そうだ!」
「な、なんだ」
「アンジェリクは、ドラゴンに乗って飛んできたと言っていた!」
ちょうどその時、バルニエ公爵の来訪を知ったアンジェリクが挨拶に来た。
「こんにちは。お義父様」
「アンジェリク。きみに父と呼ばれる日が来るとは、なんと嬉しい……」
挨拶の途中でコルラード卿が割り込む。
「アンジェリク、おまえ、ここまでドラゴンに乗ってきたとか言ってなかったか」
「乗ってきたわよ。空の上はとても寒いんだけど、馬車みたいに揺れないし、温かくしてきたから平気よ」
「ドラゴンが、いるのか?」
「ええ。飼ってるの」
「飼ってる?」
「三匹いてね。みんな、とても可愛いのよ。ここまで運んでくれた子はラッセって言って、一番大きい男の子。後はサリとブランカっていう女の子がいて、サリはラッセの奥さんなの。ブランカはまだ子どもだけど、お手伝いをよくするのよ。サリとラッセにはね、なんと、もうすぐ赤ちゃんが生まれるの!」
「へ、へえ……」
コルラード卿は、狐につままれたような顔で曖昧に頷いた。
「忙しいと思うけど、今度ブールに来てよ。ラッセたちを見せたいわ」
鱗の色や大きさを詳細に、実に嬉しそうに語るアンジェリクに、「うん」とか「へえ」とか返事をしながら、コルラード卿、そしてフェリクス卿の頭の中にも、ドラゴン、ドラゴン、ドラゴン……と、呪文のように同じ言葉がぐるぐる回っていた。
「そうだ。結婚式をしよう!」
突然、バルニエ公爵が叫んだ。
「王都で盛大にパーティーとパレードをして、その後、ブールに行こうじゃないか」
「フェリクス、おまえ、セルジュを勘当してるんだぞ」
「勘当は解く! 領地も好きなところを分ける。それで、王も安心するはずだ」
すっくと立ちあがり、宣言した。
「私は、堂々とアンジェリクの義父を名乗りたい。孫だって、抱きたいのだ」
「そ、そうか……。まあ、セルジュがボルテール伯爵だと王に知られた以上、そうするのが一番よいかもしれぬな」