毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす


そう思った瞬間、ふわっと。


下げていた頭を上げたかと思うと、上から包み込むように慎くんに抱き締められた。


「好き」


……私は、自分のことが嫌い。


「かれん、好きだよ」


嫌いなんだってば。

偽りだらけの自分。
偽ることを選んだのは自分なのに、その道に不満を覚えている自分。

想いをくれる人に何一つお返しの出来ない……むしろ仇で返してしまう自分。

内面が恐ろしいほどに醜い自分が大嫌い。


「……顔、上げて」


恋人らしい、濃密な甘い空気。

人前でしたときのあの空気とは段違いに濃くて、二人の間に流れる時間は静かにゆっくりとしている。

この先に起こることが何か、嫌でもわかってしまう。
だからこそ、なかなか顔を上げられないのだが、そうするとまた彼を傷つけてしまうだろう。

一度も二度も変わらない。

ギャラリーがいない、二人きりにも関わらず、私達はキスをした。


「ちゅっ……ん」


静かな廊下に響くリップ音に、心臓がドキリと跳ねる。いけないことをしている気分になった。

何度も落としてくる口づけに甘さが増す。

それでも私の気持ちが大きく変わることはなくて。


身長差があるはずなのにあんまり首が痛くなってないな。……あ、慎くんが屈んでくれてるのか。相変わらず優しさの塊みたいな人だな。傍から見たらどんな感じかな?不格好で面白いことになっているのか、はたまた典型的なイチャついてるカップルに見えるだろうか?


なんて、冷静に状況を整理していた。

自分の心の冷たさに悲しくなるが、いつからか干からびてしまった涙腺からは一滴も涙が出ない。


とりあえず今は、この与えられる愛に埋もれてしまおう。

別れはきっと、まだ先だ。


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