毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす


「そうみたいだね」


水上くんの言葉に肯定しながらもやんわりと身体を離し、距離をとった。
ほとんど抵抗なく離れていった彼の身体。


元からちょっとからかうだけのつもりだったようだ。
それがなんとなく、癪に障った。


「少しは落ち着いたかな……何があったのか、聞いてもいい?」

「ダメ」


少しでも気を許してしまえばするっと内側に入ってきそうな自然な問いかけに、私は即答した。


拒否されると思わなかったらしく、水上くんは目を丸くする。


「……今のは教えてくれる流れなんじゃ?」

「秘密」


私の素を知る女の子に出会ってしまって彼氏に暴露されて破局寸前です、なんて言われた方も反応に困るだろう。

それに、今の私はちょっと不機嫌だ。

絶対に教えてやるものか。


「もっと君のことを知りたいな」


ぷいっとそっぽを向いていると、彼はそっと私の右手に左手を重ねながら、そんなドキッとさせる言葉を囁く。


今は見えないけれど、きっとそれはとても絵になっていたんだろう。
容易に想像がつく。


でも、私はそんなのには騙されない。
どうせほかの女の子にもこうして接して、簡単に落とすんだ。


さっきは安心したその手の温もりに今度は苛立って、しかし感情に任せることなくそっと手を引き抜く。


「……くっ、くくっ」


頑なに目を合わせないでいると、隣から抑えきれていない笑い声が聞こえてきた。


何も面白いことなんて起きていないのに笑うなんて……不気味だ。


せっかく王子様がいつもと違う笑い方をしているのに暗くてよく見えないのが残念、なんて思っている私も相当に不気味なのだけど。


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