毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす


「ほーら、古川。危ないからちゃんと座れー。今すぐ座らねぇと、古典の内申を減点するぞー」


担任が前方からこちらを向きながら注意をした。
やる気のなさそうな声を出しながらもしっかりと釘を刺すところは腐っても先生だということか。


この前、私にした仕打ちについてはしばらく根に持つが。


「あーはいはい!わかったよ!座る!だから減点しないで〜!」


むっとした態度を露骨に出したものの、くるりと体を反転させ、そのまま正しい椅子の座り方をした。


なっちゃんなら『このことと古典は関係ないじゃん!』くらい言いそうなのにやけに素直だ。
乗り物酔いでもしたのだろうか?


一応窓側の席だから外の景色を眺めておけば大丈夫だとは思うが、少し心配だ。

様子を伺おうと思い、前の座席と座席の間に顔を近づけると、


「……今回の範囲は絶対無理。テストの点数じゃ絶対赤点取る。内申は削れない。ほんと無理」


……なにやらぶつぶつと聞こえた。


次の定期テストのことを思い出したようで、俯いて同じ言葉を繰り返している。

絶望的で不穏な空気。軽くホラーだ。

とりあえず、乗り物酔いではないということが分かって一安心ではある。

実は、かくいう私も三半規管が弱く、時々乗り物酔いをする。

エレベーターですら軽く気分が悪くなるのだから笑えてしまう。

まだ目的地までしばらくあるようだし、軽く目を閉じていよう。

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