毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす

夕食会場にて



……完全に油断していた。


他校のナンパくんに再開したのはその日の夕食のこと。

一日目の夕食はバイキング方式で食べない訳にもいかないから、部屋から出るのは避けられない。
部屋から夕食会場までは背丈の大きい友達の陰に隠れつつ細心の注意を払ってきた。


……それにも関わらず。


「やっほー!また会ったね、お人形さん」


いくらなんでも神様のいたずらが過ぎる。


いや、違うな。これは人為的なものと言うべきか。
実はここでもまた担任の弊害があった。


お腹を空かせた高校生の夕飯は公平にじゃんけんで決めるべきという我が一組の担任の提案が通ってしまい、そして見事に言い出しっぺが最弱となったのである。


二組の生徒たちがちらほら残る中、私たち一組が席についたその五分後。


ざわざわと夕ご飯に期待する生徒の声が聞こえ始め、『他の高校の一番初めに食事を摂る生徒達が来たんだなぁ』と、つやつやの白ご飯を噛み締めながらぼんやり思っていたところに可愛い顔で覗き込まれ……


「ねぇ、無視しないでくれる?!」


こうして穏やかな時間を邪魔されることとなった。


担任め……食事くらい素直にクラス順と提案してくれたら良いものを……と思いつつも、ここまでくると怒りを通り越して諦めの気持ちが強くなる。


今考えるべきは担任の愚行ではなく、目の前のナンパ男についてだ。


どうやって追い払おうか。
この手の男は無視しようが冷徹な視線を向けようが動じないだろう。


一番早いのは実力行使だが、先程よりも今向けられている視線の方が遥かに多い。


その中にはこちらを心配そうに見つめるなっちゃんと、男の子を冷ややかな目で見ている凛ちゃんもいた。


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