平成極上契約結婚【元号旦那様シリーズ平成編】
「かしこまりました」
 
助手席に座る石原と呼ばれた男性が携帯電話をポケットから出すのが見えた。秘書なのかもしれない。かっちり七三分けにした髪型で、テキパキと電話をかける姿は有能そのもの。
 
彼とは反対に、円城寺さんは前髪をさらりと流し襟にかからないくらいで、一見遊び人風に見えるが、兄と同年齢の三十歳で大会社の取締役専務だ。
 
石原さんの話に耳をそばだてていると、やはりホテルの一室のようだ。誰にも話を聞かれたくないが、部屋を取ってもらうほど円城寺さんにとって有益のある話ではない。

円城寺さんのスケジュールを簡単に教えた男性とは違うように思う。石原さんだったら、教えてもらえなかったかもしれない。別の人で私は幸運だった。

「円城寺さん、ラウンジでもかまわないのですが」

「ラウンジでは秘密を守れるかわからないぞ? それでもいいなら」
 
彼はどちらでもいいような曖昧な笑みを端整な顔に浮かべた。
 
うっ……。
 
円城寺さんが私の話を引き受けてくれるかわからないけれど、やはり聞かれては困る話だ。

「……わかりました」
 
ホテルの部屋に行ったとしても、純粋に彼は話を聞いてくれるだけ。信じられないくらいモテる円城寺さんは女性には困っていないし、友人の妹に手を出すほど卑劣な男性ではないと思っている。

ドアの窓のところに肘を置いてゆったりと座っている円城寺さんは「クックッ」と、愉快そうな笑いを漏らす。
 
信頼するほど円城寺さんを知らないけれど、そんな笑いをされると心配にもなって来る。
 
不安な気持ちを見せないようピンと背を正して運転手の後頭部を見つめた。
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