カウントダウン
(ウソだろ、そんなことって……)


オレは心でそうつぶやきながら、血まみれのセーラー服を着ている忍の顔をじっと見ていた。


(何でお前がここにいるんだよ……。

お前が死んでからその席は美保子が座っていたはずなのに……。

消えろ……、いなくなれ……。

お前はもう死んだんだぞ!)


忍へのいじめがピークだった頃、オレはあの席に菊の花を一輪だけ差した花瓶を置いて、忍が来るのを待っていた。


嫌われものの忍の死を演出することで、忍の居場所が今より更になくなってしまえばいいと思っていたからだ。


人の不幸は最高に楽しくて愉快だ。


世の中のすべての不幸を背負っている忍みたいな奴を見ると、何の取り柄もなくて平凡な自分ですら、幸せで満たされているような気がしてくる。


人はきっと無意識のうちに自分と他人を比較して、自分の幸せ具合を推し量るのだ。


オレは毎日、忍をいじめながらこう思った。


ああ、オレはあんな陰キャ眼鏡に生まれなくて本当に良かったって……。


いくらいじめても決して反撃してこない忍は、オレたちの最高のサンドバッグだった。


そしてそんな優越感に満ちた日々が、これからもずっと続くと思っていたのに……。


「お前が私にしたことを私は死んでも決して忘れない!」


夢の中でそう言った忍の言葉が鮮明にオレの頭の中に蘇っていた。


オレはまるで蛇にらまれたカエルのように、美保子の席に座っている忍を見つめたまま、教室のドアのところで動けなくなっていた。
< 44 / 294 >

この作品をシェア

pagetop