都合のいいふたり
「あゆ、可愛い。なんか、いつもと違う。孫にも衣装って言うんだっけ?」

「失礼ね。私はいつも可愛いけど!」

「まぁ、すっぴんのあゆも好きだけどな。」

そう言われて、顔が熱くなる。
確かに、涼介の前では最近、すっぴんでいることに抵抗もなく、それが自然になっていた。

「コーヒー飲んだら、出掛けるぞ。昼飯は外で食べるからな。」

「映画の時間は?」

「映画は2時からだから、先にチケットを買って、時間まではランチタイムだ。どう、いい感じだろ?」

「いいね、それ。何かデートみたいだけど。」

私は思わず言ってしまった。今まで「デート」という言葉は避けてきたのに。

「みたいじゃなくて、デートだから。」

涼介の言葉に焦って、何か言い返さないと思ったけどやめた。私はこういう時に、多くの場合、余計な言葉を発してしまうから。

駅までの道を並んで歩く。
冷たくなった風が、冬の始まりを教えてくれる。

涼介がうちに転がり込んで来たのは、夏の初めだったのに、今年は色んなことがありすぎて、時間が経つのを早く感じる。

私はイベントごとの多い冬が嫌いだ。
特に、お正月なんてなくていいと思っている。

彼氏がいる時でさえ、クリスマスは一緒に過ごしても、お正月は皆んな家族の元へ帰って行く。
家族とお節料理を食べ、年越しの時間を過ごし、懐かしい友達との再会を喜ぶ。

そんな当たり前のような事が私にはできない。
私には帰る家は、ひとつしかない。

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