藍先輩の危険な溺愛レッスン。
はあ、そっか。明治時代の人ってそういうはっきり好きとは訳さないで奥ゆかしい表現をあえて使ったんだな。


って、ことは。


昨日先輩が言ったのは、私に対してアイラブユーだったわけで……。


そうだよね、勘違いなんかじゃない。


あれは間違いなく告白だったんだ。


だってだって、月が綺麗だって言ってたもん。


「そうなんだ、素敵だね」


うっとりしながらため息を吐いた。


「佐倉さんも漱石がもしかして好きなのかなって思って。僕もこの春入学する前からはまっててほとんど読んだんだけどさ」


「へえ」


「前期三部作もよかったけど僕はどちらかという後期三部作の『行人』で心打たれたんだよね。有名なのは『坊ちゃん』だけど、これは漱石が先生だった頃の経験に基づいて……」


「ふうん」


この後、延々と彼の漱石愛を聞かされていたんだけどほとんどわからなかった。


というか彼の声は耳を素通りしていった。


私にとって漱石さんと言えば、月が綺麗ですねが一番重要なこと。


先輩は結構恥ずかしがりなのかおくゆかしいのか。
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