運命が変えた一夜 ~年上シェフの甘い溺愛~
『別れよう』
必死に覚悟を決めて絞り出したその言葉。
彼女が再び前を向けるように、笑顔で、あふれるものをこらえて告げた言葉。


彼女をまっすぐに見つめながら、もうこうして彼女を見つめることも最後かもしれないと覚悟を決めながら目にやきつけようとしていたあの日。


俺の目に映ったのは表情をなくしていた彼女の瞳から、涙がこぼれる瞬間だった。

大粒の涙がぽたぽたとまるで音が聞こえてきそうなほどに、あふれだす彼女を見て、俺はこらえられずにあふれ出す感情のまま、彼女を抱きしめた。

何度も何度も愛してるとごめんねを繰り返し、抱きしめ続ける俺の耳に聞こえたのは、あまりにか弱い彼女の声だった。

『一緒にいたい』
その言葉に俺は救われた。
自分を責め続けていた俺の心は救われたんだ。
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