御手洗くんと恋のおはなし



 市立病院の玄関口を通り抜けると、和葉が泊まっている病室へ向かった。
 そこは四人用の共有部屋で、右奥のカーテンに手だけ滑りこませ声をかける。

「カズ、大丈夫?」
「みーちゃん! 来てくれたんだ」

 カーテンを開けると、和葉はベッド上で身を起こしていた。
 膝上に読みかけの雑誌を伏せ、笑顔をこちらに向けてくれる。ただ、右足が痛々しそうにギプスに包まれ挙上されており、満はそれを見て辛くなった。

「これ、プリン買ってきた」
「わぁ、ありがとう! 一緒に食べよう」
「俺はいいよ。全部カズにあげる。冷蔵庫に入れておくね」

 ベッド脇の小さな冷蔵庫にしまうと、満はベッドサイドのパイプ椅子に腰掛けた。

「まだ痛む?」
「ん、少しね。でもまさか、こんな簡単に骨折するとは思わなかった。カルシウム不足かなぁ」

 笑う和葉に、満はいつものからかいを口に出せない。眉を八の字にして、声をひそめて言う。

「本当にごめんね。俺のせいだよな、ケガしたの」
「え? そんなことないよ」
「でも、俺があんなことしたから」

 満の言葉を受けて、和葉は少しだけ頬を染めた。
 しばらく視線を宙にさまよわせて、ゴホン、と咳をした。

「じゃあ、みーちゃんは罰として毎日お見舞いに来ること! もちろんスイーツ付きねっ」

 ニコッと笑う和葉に、満は敵わないなと苦笑した。

「あれ、ダイエットはどうしたの?」
「中止させたのは、みーちゃんじゃない」
「でも安静時期に食べると、太っちゃうよ?」
「だって病院食って、(わび)しいんだよ~。食べることが大好きな私にはつらいよっ」

 すると、クスクスと密やかな笑い声が満の背後から聞こえた。
 振り返るとそこにはカーテンがひかれていたが、声の主に和葉は心当たりがあるようだった。満越しに、カーテン向こうの相手へと声をかける。

「あ、小林さん聞いてましたねー!」
「ふふ、ごめんなさい。あんまりにも可愛らしい会話だったから」

 カーテン越しに聞こえた声は年配の女性のもののようで、どこかしとやかな印象を受けた。
 ふいにカーテンがスライドされ、向こうの人物の姿が現れた。
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