御手洗くんと恋のおはなし
「美晴さん……私……」

 加寿子の病気は、手術をすれば治る可能性があるものだと聞かされていた。
 しかし、病は人を弱くする。もし治らなければ……と、近づく手術に恐怖を覚えていた。この歳になって手術を怖がるなど、誰に言えようか。言えるならば──そう、ただ一人だけだったのだ。
 加寿子は涙を拭う。
 見上げるとそこには、やはり美晴のように微笑む満の顔があった。

「カズちゃん、僕、雨男だからね。美しいものをたくさん知っているよ。細く絹糸のような雨、雨上がりにかかる虹、鏡のような水たまりに、潤いに喜ぶ植物たちの姿──そういった綺麗で美しいものが、たくさん、たくさんこの世界にはあるよ」

 彼はそう言って、加寿子の頬を撫でた。

「それらのすべてが、君の味方だよ。雨男の妻なんだ。雨がもたらす美しいものすべてが、カズちゃん、君のためにある」

 だから、と満を通じて、愛しき相手が微笑む。

「一人だと、思わないで。僕も君に、もっと美しいものを見せられるように、雨男らしく雨を降らそう」
「……美晴さん」

 加寿子はそっと、目を閉じた。
 強かったはずの雨音が、いつの間にか弱くなっている。
 もうすぐ雨がやむのだろう。やんだらあの窓から、外を見よう。
 そしたらきっと、彼の言ったような美しい世界が──そこには広がっているのだから。
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