御手洗くんと恋のおはなし
「え、御手洗の母ちゃん?」

 背後で大谷が驚きの声をあげた。

「ハーイ、満の母親の洋子さんだ。よろしく! 君、満の友達?」
「あ、はい。大谷圭介です」

 満は自分の首回りから、洋子の腕をゆっくり外す。

「いつ日本に帰ってきたの?」
「ついさっき。直で来たんだよ!」

 笑う洋子の背後から、ウェイトレス姿の和葉も姿を現した。

「あ、みーちゃんに大谷くん」

 和葉はホットコーヒーを大きなスーツケースのあるテーブルに置き、洋子に「こちらに置いておきますね」と声をかけた。
 和葉は何やら楽しそうに、お盆を抱えて満に近づいた。

「えへへー、みーちゃんのお母さん初めて見た! 世界を駆け回るカメラマン! すごいねっ」
「もうおしゃべりしたの?」
「うん、写真もいくつか見せてもらったよ」

 母親が変なことを和葉に言ってないだろうか、と満は不安がって洋子を見た。

 洋子はプロのフリーカメラマンで、国内外問わず写真を撮っている。主に人物──いわゆるポートレートを撮る洋子の腕前はその界隈では有名らしく、東南アジアからヨーロッパ、アフリカと飛び回っていた。
 快活、剛胆、自由。それが、洋子を表す言葉である。

「満に圭介くん、よかったら一緒にお茶しよう。ケーキとコーヒーを奢るぞ」

 コンコン、とテーブルを洋子は叩く。満は「いいよ別に」と断ろうとしたが。

「やりー! 御手洗の母ちゃん太っ腹だなっ」

 万年金欠男の大谷は、やすやすとその提案に乗っかった。満も苦笑しつつ席に座った。
 約半年ぶりの母親だ。話したいことが、ないわけではない。

< 78 / 109 >

この作品をシェア

pagetop