罰恋リフレイン
「夏城くん……」
「何?」
「蒼くんって呼んでもいい?」
一瞬固まってしまった。日野に下の名前で呼ばれたことが新鮮だった。
「だめ……かな?」
「だめじゃないよ。呼んでいい」
「じゃあ私のことも薫って呼んでくれる? もちろん二人きりの時だけでいいから」
「うん。わかった」
薫……薫……。
下の名前で呼ぶことに慣れるには時間がかかりそうだ。こんなの、本当に彼氏彼女みたいじゃないか。
「付き合ってること……周りに言ってもいいよ」
「え?」
「私が内緒にしてほしいって言ったけど、蒼くんの思う通りにしてくれていいから……」
「あー……そう……だね」
俺だって気持ちを自覚したのだから堂々としたい。でも付き合ってることを周りに言ったら、どこから罰ゲームのことがバレるか分からない。俺が薫に付き合ってほしいと言ったことが罰ゲームだとわかったら彼女を傷つける。
「まだ内緒にしておこう。からかわれたりするの嫌だし」
「うん……そうだね……」
薫は困ったように笑った。
今こうして会うだけで十分だ。
悪者になりたくない。薫に軽蔑されたくない。
このまま黙って付き合い続ければ、俺の薫への気持ちは最初から本物だったってことになるから。
中庭のベンチでコロッケパンをかじっていると渡り廊下を歩いていく薫と香菜が目に入った。学校で見るあいつはいつも通り髪を下ろして、みんなと同じ制服を着ていると紛れてしまうはずなのに、気持ちを自覚してしまったらもう薫以外目に入らないようになってしまう。
「日野って最近変わったよな」
横にいる同級生が校舎に入って行く薫を見て急に呟いた。
「い、いきなり何?」
前触れもなく薫の名前を出されて声が上ずる。