罰恋リフレイン

それでも蒼くんのことを忘れるなんて私って最低だ。

「結構待ってるみたいだし、向こうは日野のこと本気なんじゃん? 早く行ってあげな」

好きな人から他の男のところに行けと言われる。冬木さんにそんなことを言われて胸が苦しい。

残業させたことを何度も謝罪する冬木さんに帰るよう急かされて会社を出る。
正面玄関の前には蒼くんが落ち着かない様子で待っていた。

「ごめんね!」

化粧を直す余裕もなかったし慌てたから髪も乱れる。昔と同じ不細工な姿を見せたらまた笑われてしまう。
蒼くんを惚れ直させるとか計画したのにこんなんじゃ呆れられて仕返しどころじゃない。

「薫を待つの苦じゃないから大丈夫」

そう言う蒼くんの顔は穏やかだ。久しぶりに見たその表情を直視できなくて思わず目を逸らした。
かなり待たせてしまったのに私を責めるような言葉を言わないことに申し訳なさが増す。

蒼くんが予約しておいてくれた店に入る。予約の時間はとっくに過ぎていたけれどまだ満席ではなかったから待つことなく席に案内される。

「ごめんね、予約までしてくれてたのに」

「仕事だからしょうがないよ」

店内を見回して見覚えのある人がいないか確認する。今日も私は仕組まれた罰ゲームではないかとどこか疑いながら蒼くんに会っている。

蒼くんはメニュー表を見ながら「薫とお酒飲むの初めてだね」と嬉しそうな顔をする。
そういえば付き合っていた頃も蒼くんはあまり怒ることがなかった。だからこそ最後に怒鳴られた記憶だけが強く残っている。

あの時は落ち着いて話し合うこともしないまま私が一方的に避けた。
とにかく怒っていたけれど、私はよく話を聞くべきだったんじゃないだろうか。蒼くんのことをもっと知る必要がある。

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