王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
北の戦い


結局、フレークルート村もオリディ村も大した影響は無かった。
ただ、王太子殿下の向かわせた偵察隊の調査では、大森林地帯のフィアーナとの国境付近にある砦で、哨戒していた兵があちら側から侵入した傭兵を見かけた、という情報が入った。

「フィアーナの兵ではない、ということだったな…となれば」
「はい。おそらく事を起こしているのは、正式な兵を動かせない立場の人間、と推測されます」

メイフュ王太子殿下とカインさんが話してる間、絶対同じ部屋から動くなと言われてたから魔術の勉強をしていた。一応話は聞きながら、目を閉じて魔術発動の実験。


魔術の勉強をして初めて知ったけど、生物と静物にはそれぞれ異なる波長の“色や光”を持っている。
生物の場合は生命や魂…心。静物の場合でも存在するエネルギーのようなものがあり、植物ではそれに加えて生命の輝きを感じる。

だから、目を閉じていてもそれぞれの持つ光の性質やエネルギーでどんなものか判別がつくし、魔術を使う場合どんなふうに力を加えればいいかをイメージしやすい。

メイフュ王太子殿下は…とても強く大きな輝き。まばゆいほどの黄金色は、とても人を惹きつける。カインさんは意外にも炎に似た紅い光で燃えるような強いエネルギーを感じる。
マルラは優しく穏やかな光。春の陽射しのようなあたたかさを感じる。

こうしてわたしがハッキリ視ることができるのは、せいぜい数人。初心者だし魔力も低いから、これでもまだ頑張った方。

(風…空気の動きを読んで…そこに力を加えれば…)

室内で火や水の魔術を試す訳にはいかないから、初歩の初歩である風を起こす魔術を試してみる。
サラさんは祝詞の詠唱を必要としないタイプだから、ノートに書かれていたのもその方法。
風を感じていると、空気の動きが細い糸のように視える。その形を変化させて…強い風にするならば、糸を束ねて使う。

フワッ、と微かな空気の動きを肌で感じた。

「リリィ、すごい!風が起きたよ…あ」

マルラが驚いた後にブワッ!と突然突風が巻き起こり、バサバサッと書類が舞い上がる。

風が収まったあとに残ったのは、バラバラになった書類といい笑顔でお怒りの王太子殿下で…

「リリィ…ちょっと後で話をしようか?」
「ご…ごめんなさい……」

数分後、ある意味地獄を感じた…。



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