王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情

懸命に彼の腕を掴むと、振り返った顔にまた心臓が高鳴る。

ぬけるような白い肌に、月光に輝く金糸のようなプラチナブロンド。
細面に切れ長のブルーグリーンの瞳。鼻筋はスッと通っていて、薄い唇は笑みを浮かべている。

こんなに綺麗な人がいるんだ…と、一瞬で目を奪われた。
黒髪はきっと染めていて、お湯で落としたんだろう。ボロボロの格好もきっとわざと着ていたとしか思えない、品を感じる姿だった。

「ぬるま湯だからな、平気だ」
「…それでも、だ、ダメです!」
「やれやれ…」

男性が呆れた顔で、邪魔になっただろう前髪を片手でかき上げる。細く見えて確実に鍛えてある腕と、引き締まった体が見えて。かあっと顔が熱くなった。

「何を今さら赤くなってる?あんたも温泉に入ってるだろう」
「わ、わたしは服を着たままですから!そ、それに…わたしは女官です。はしたない真似はできません!」

パニックになりすぎて、余計な事まで口走ってた。それにも気づかないくらい、頭が混乱気味になってしまっていて。

ククッ、と男性はなぜか可笑しそうに笑う。

「あんたも、王太子妃狙いなのか?」
「いいえ、違います」

キッパリと言いきったわたしを、彼は不思議
そうに見た。

「どうしてだ?どんな女も、王太子妃になれるチャンスがあるなら食いつくものだろう?」
「少なくとも、わたしとわたしの友達は違います…わたしは、捨て子なのですけど…流行り病で死にかけた時に王太子殿下の建てて下さった孤児院で治療を受けられたおかげで助かり、ここまで生かされてきました。だから、王太子殿下にご恩をお返しするためにやってきたんです。
将来はわたしのような捨て子を助けるために孤児院で働く夢があるんです。だから、お妃様には興味がありません」

友達も故郷を助けたいからなんです、と付け加えると、「なるほど」と彼は呟いた。

「……オレも、勝手に頭でっかちになってしまっていたようだな。感謝する」
「…いえ…ッ!?」

ドクン、と心臓が嫌な音を立てた。急に息苦しくなり、全身が重くなっていく。

こんな時に、発作なんて…!
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