王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情

今日も今日とて、厩舎のお手伝い。
なんだかすっかりスタッフの一員になった気がする。
(もし女官クビになったら雇ってもらおうかな)なんて。フォーク(馬房掃除道具)を持ちながら、しみじみしてた。

サラさんも護衛中だけど手持ち無沙汰というわけにもいかず、カモフラージュのため簡単な仕事を手伝ってくれる。

「よっ…と、リリィ様。こちらは終わりました」
「すみません、手伝っていただいて」
「いえ…それより、なんだか馬の数が少なくなってませんか?」

サラさんの指摘したように、ここ数日馬房にいる馬の数が減っている。
以前は100頭あまりがいたのに、今日は50頭程度だ。

「うん…馬丁さんはみんな体調不良とか脚のケガって言ってるけど…おかしいのは、朝になって発覚してる点。日中はなんともなかった元気な馬が、朝になってケガをしたり病気になってる…不審に思って夜通し監視してみたけど、特に不審者はいなかったって」
「……」

サラさんは難しい顔をしてしばらく馬房を見つめた後、急にしゃがんで寝わらをジッと見た。

「リリィ様、病気になった馬を見せてもらえますか?」
「……うん、馬丁さんに頼めば大丈夫だと思うよ」

サラさんは何かに気付いたのかもしれない。先ほどの寝わらをひとつかみポケットに入れて、別の厩舎に移動した。

そしてサラさんは病気の馬を見て確信したように、「やっぱり」と呟いた。

「リリィ様、“闇”の呪いのにおいがします。馬の病気もケガも、おそらくそれが原因でしょう」
「えっ…“闇”が!?」
「はい。“闇”は毒物と違い、操ることが出来ますからね。馬の心や魂に取り憑き、悪影響を及ぼした…呪いの元は、このワラです。飼い葉や水だとどの馬もという訳にもいきませんが、寝わらならば必ず使われますからね。何らかの意図を持った悪意あるものでしょう」

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