贖罪


「これまでも突っ込みたかったんですよ!この際だから言いますけど、良いですか!?」





瀬戸はこれまでの一颯と汐里の距離感バグの例を上げていく。
飲み物の飲み回し、食べ物の食べ回し、名前を言わなくても必要なものが当てられる、プライベートでの自宅の行き来等。
挙げたらきりがないほどだが、極めつけが脱がせたストッキングを履かせたこと。
それが瀬戸には信じられなかった。





「普通ストッキング履かせますか!?自分で履かせるし、脱がせたますよね!?」





「脱ぐのも履くのも面倒だ」





「面倒がるから脱がせて、履かせるしかないだろ」





「だから、何でそれを当たり前のように言うんですか!?あー、もう!」





距離感バグバディの回答に項垂れる瀬戸の肩を椎名が叩く。
ちなみに椎名達捜査一課の同僚達はこの二年で見慣れているので、誰一人として突っ込まない。
オッサンのような美人と細かいことに気づく美形(ボンボン)。
笑いの種には丁度いい。






「で、報告書まとまったか?」






汐里は捨てずに置いていた履き古した靴を履くと、瀬戸のPCを覗き込む。
報告書は既に出来上がっており、プリントするだけになっていた。
捜査一課に異動してきて数ヶ月、瀬戸は着々と仕事をこなしながら距離感バグバディのお目付け役をしていた。





「はい。貴方がたがバグったことをしている間に終わりました」





「言うようになったな、瀬戸」





一颯は救急箱を片付けながら苦笑いを浮かべる。
そんな彼をよそに汐里は報告書をプリントアウトして、目を通していた。
先ほど起きた立てこもり事件は郵便局で行われ、金銭が目的ではなかった。
目的は一つ、立てこもり事件を起こすこと。





「馬鹿だな、この犯人も。立てこもり事件を起こせと言われたから起こして、前科持ちになるなんてな」






「この前の幼児誘拐未遂事件にしかり、教師殺人未遂にしかり、自分の意思で行ってるわけじゃない事件が多いな」







「これのせいじゃないですか?」





呆れ顔の赤星と椎名に、瀬戸はいつの間にか開いていたタブレットの画面を見せた。
一颯と汐里もそれを覗き込む。
それには≪pigritia ludum -怠惰のゲーム-≫という文字とカタツムリが殻から頭を出したり引っ込めたりを繰り返すアニメーションが映し出されていた。





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