悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
「竜のお友達だって。レイルは竜の知己いうのになりたくて山の中を彷徨っていたんだけど、お父様もお母様も僕たちの世話が忙しくって断ったんだよね」

 ファーナが頷くと、フェイルも続けた。ついでにレイルの過去まで暴露する。

「それは語りすぎだ!」

 あ、そうだったの。

 レイルの慌てた様子がおかしくて、わたしは彼の腕の中で不覚にも笑ってしまった。
 いつの間にかフローレンスからわたしのことを取り戻したレイルは、ちゃっかりわたしを背後から抱きしめる形になっていた。

「……俺だって冒険心旺盛な若者なんだよ」
「……別になにも言っていないけど」
「いや、なんか伝わってきた」

 竜に愛され、守護されるのが女性なら竜の乙女、男性なら竜の知己とこの世界では呼ばれる。竜の知己になるって、確かに見習い魔法使いの男の子が夢見そうなことだわ。

 竜の乙女になった少女のお話や、大昔竜の力を得て国を守った英雄王のお話で子供たちは育つから。

「み、認めないわ。どうしてわたしじゃなくてあなたが黄金竜からお友達宣言されているのよ!」
「いや、でも。わたしも初耳だから」

 フローレンスの異議申し立てにわたしは大真面目に答えた。
 なんだか最後の最後で設定を山ほど盛られた感がある。

「ちょっと! どうして突っ立っているの! 早くリーゼロッテを捕まえなさいっ。わたしは王太子の婚約者よ。その婚約者がここまでコケにされて、どうして誰も何もしないのよ!」

 フローレンスの声が庭園に響く。
 よろっと力の抜けたフローレンスは、それでもなんとか踏ん張ってヴァイオレンツの元へ歩み寄る。

 彼に抱き着き、「ヴァイオレンツ様ぁ。お願いです。あの女を捕まえてください。こんなの、こんなのって許せないです。わたしのほうがこの世界のヒロインなのに」と泣きついた。

「あれが好きとか、シュタインハルツの王太子の女性の趣味は大丈夫か?」

 そんなことをわたしの耳元でこっそり囁くから、わたしは「さ、さあ……?」とレイルに答えた。近い距離だからってぶっちゃけすぎだよ。

 抱き着かれたヴァイオレンツは、少しして。

「……フローラ。きみは一体……誰だ?」

 と、そう呟いた声が聞こえてきた。
 それから彼はフローレンスから一歩離れた。
 茶番は終わった。ヴァイオレンツは、最後の最後で、フローレンスから目をそらした。

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