君と私で、恋になるまで



"瀬尾。あの日、どうして抱きしめてくれたの?"

"……枡川が、傷ついてるって思ったから。"



私は、いつも "瀬尾だから" 触れたいって思う。

___この人が、私に触れた理由は、私とは違う。



それを理解した上でも、こんな風に体温を共有した部分から、私は簡単にまた動揺するからもうとっくにこの恋を患っている自覚はある。





それなのに。

困ると伝えても未だ握る手を離さない男は、私を瞳におさめたまま徐に口を開く。


「……同期への愛、だっけ。」

「…え?」

「その表現は本当やめてほしいけど。
まあ、同期は勿論自分なりに大切にしてる。」

「うん。」

こんなの聞いたら古淵が泣いてしまうな。



「…でも、俺はそれだけで触れたりしない。」

「……?」

「傷ついてるのが、お前だったから。



…俺は、枡川だから触れたいって思ってる。」




いつもの調子のロートーンで、告げられた言葉に大きく目を見開く。



何を、言ってるのか、この男は、なんで急に、



より一層働かなくなってきている頭で咀嚼し終えて、かあああっと急激に熱くなる頬に、赤みはまだ最大値に達して無かったんだな、なんてどうでも良いことを考えてしまった。


「…顔、赤すぎるな。冷えピタも買ったけど貼る?」



逆になぜそんなに落ち着いてるのかを聞きたい。

どういう気持ちで私に伝えてるのかよく分からないまま、それでも冷えピタは有難いとコクコク頷く。



食べたいものとかあれば取ってくるけど、とやはり平然と尋ねる男を断れば、すんなり立ち上がって去っていく。


心臓に、悪すぎる。


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