泣きたい訳じゃない。
年に数度、現地チームの誰かが帰国して、会社の方針や仕事の進め方などのミーティングをしていたので、その時に拓海には2度は会ったと思う。
拓海は3度だと言い張っているけど。

会うことはほとんどなくても、メールや電話でのやり取りの中で、拓海の仕事に向き合う真摯な姿勢や、疲れている時にさり気なくフォローしてくれる優しさは、海を超えて、私の心に伝わって来た。

初めて二人きりで会ったのは、一緒に仕事を始めて二年が経っていて、その時にはもう、私は拓海が好きだった。

拓海も同じ気持ちでいてくれたみたいで、二人が付き合い始めるのは自然なことに思えた。

私達は付き合い始めた時から、『今日』が来ることを知っていた。

拓海がオフィスの立ち上げて直ぐに、他のメンバーを残して日本に帰国したのは、今回のバンクーバーへの赴任の準備のためだった。

青柳拓海は仕事ができる。

現地の人達とも対等に付き合うのに必要なフレンドリーさと冷静さを持ち合わせている。
背が高く聡明な顔立ちをしていることも、海外での時に強引な取引をしようとするビジネスの中では有利に働いている。

結果、海外の新規事業にはぴったりな逸材だと、経営陣からの信頼されている。

拓海が評価されるのは嬉しいけど、近くにいたいと願う私は素直に喜べない。
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