泣きたい訳じゃない。
「時差ボケは大丈夫?」

「時差には慣れてるから。」

「部屋はどんな感じ?」

「家具付きだから、今日から普通に生活できてる。」

「食べ物は?」

「近くのスーパーに行って来たよ。やっぱり、こっちの食料品のサイズ感は半端ないな。俺、太りそう。」

「そっちのハンバーガーセットが完食できるようになったら、もう手遅れだからね。」

「莉奈も子供の頃は太ってたの?」

「私は普通だと思ってたのに帰国した途端、肥満児扱いされてショックだったわ。」

「コロコロ莉奈ちゃんにも会ってみたかったな。その頃の写真はないの?」

「実家にあるけど、拓海は写真を見て笑いたいだけでしょ。」

「否定は出来ないな。でも、俺の知らない莉奈を見たいって言うのも本当。」

「今度、実家に帰った時にとびきり笑える写真を持って帰って来るよ。」

「やっぱりいい。莉奈の実家に行く時の楽しみに取っておくから。」

『それってどうゆう意味?』って聞きたいけど、『深い意味はない。』って言うに決まってるから、聞かない。
拓海は、無責任な言動が嫌いだから。

「こうやって話してると、今までと変わらないね。」

「俺は、莉奈に触れられなくて寂しいけど。昨日の夜の莉奈を思い出して、一人で頑張るよ。」

「真面目な顔して、変なこと言わないでよ。こっちは爽やかな朝なんだから!」

「変な意味ないし。莉奈こそ何考えてるの?」

拓海は意地悪く笑った。
私達はこれぐらいが丁度いい。いつも通りの取り留めのない会話は自然なのか、それともお互いが「いつも通り」を意識しているのかは、分からないけど。
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