泣きたい訳じゃない。
「拓海、部屋に入らない?」

「莉奈の部屋に行ってもいいの?」

最近の拓海は弱気な発言が多い気がする。

「だめって言ったらどうするつもりだったの?」

「一応、ホテルは予約してある。だって、莉奈、一昨日の電話で別れたいって言っただろう。」

「そうだけど。」

「俺は別れるつもりなんかなかったけど、無理矢理って言うのも嫌だったから。一応な。」

「じゃあ、外で話す?」

私は思ってもみないけど、意地悪を言ってみる。

「だめ。あんなキスしといて別れるとか、絶対ないから。莉奈は、いつからそんなSキャラになったの?俺をいじめて楽しい?」

「拓海はいつから、そんな弱気になったの?」

「莉奈に会えなくなってから。」

拓海はもう一度、私を抱き締めて、またキスをする。せがむように唇を押し付けたかと思うと、私を支配するように激しさを増す。

このままじゃ、私はここで押し倒されそうだ。

「待って。部屋に入ろう。」

「もう、意地悪言わない?莉奈の本当の気持ちを聞かせて欲しい。分かったって言うまで止まないよ。」

やっぱり、拓海は拓海だった。

「分かった。」

拓海は離れると、私の手を引っ張ってホテルの玄関を通り、エレベーターに向かう。

「部屋のナンバーは?」

「302」

「キーは?」

「カードキー。」

私が鞄から取り出すと、拓海に奪われた。

エレベーターを降りると部屋に向かい、ドアを開けると同時に、私は部屋の壁に押し付けられた。

両腕で挟まれ、身動きが取れない。

「莉奈、俺のこと好き?」

拓海は今まで見た事のない切ない表情をしている。

「好き。」

今は、これ以外の答えは見つけられない。
何ヶ月も悩んでいたのに、一瞬で拓海に支配される。

「俺は莉奈とちゃんと話をしたくて、ここに来た。それは信じてくれる?」

拓海が目の前にいるのに、信じないはずがない。

「信じる。」

「じゃあ、後でちゃんと話をするから、今は莉奈を抱いていい?」

そんな風に見つめられたら拒めない。

私は返事の代わりに、拓海の首に両腕を掛けて、キスをした。
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