契約期間限定の恋。
楽しければそれでいい。
 県内でも無難な高校で青春を過ごし、まだ働きたくないけど学びたい専門分野も特にないからと、今思えば世の中をナメた理由で実家から近い経済系の四年制大学に進学。
 サークル活動にバイトにオシャレ、成人してからはゼミ仲間達との飲み会。大学にはほとんど遊びに行っていたようなものだし授業はおまけ。
 毎日がキラキラしていて、大人でも子供でもないような、先のことをなんて考えない、行き当たりばったりの自由きままな生活が楽しかった。
 おかげで必要最低限の単位しか取らなかったし、教職課程くらいは受けておくんだったと後悔しても後の祭りだ。
 周りがどんどん内定を獲得する中、エントリーシートすら通らず新卒採用組から大きく外れてもなお「若いしなんとなかなるでしょ」とあぐらをかいて卒業した結果、多額の奨学金返納義務を背負って社会に放り出されることになる。

「本日からこちらでお世話になります、桜田雪乃と申します」

 今や仕事の選択としてポピュラーな派遣社員だ。就業先を点々とするはめにはなるけれど、最低でも三ヶ月、最長で三年。様子を見て相性が悪ければ途中で継続契約を断ればいい。
 そうやって中小企業から大手までいくつかの会社を渡り歩いて四年目になる二十六歳の春、友達から結婚や昇進の話が出始める頃、私はアイリスホールディングスという大手企業で受付嬢になっていた。
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