ふたつの愛し方
Episode:21
英介との輝く未来ーーー。

それは決して子供に恵まれて、二人で成長を見守り、育てて行く未来ではなかったらしい。


あの日から1年の月日が流れても、子供は出来ずに…ー…。


「出来ないね……検査をお互いにしても問題はなかった……」


「そうだな……でも俺は……不妊治療なんてしたくない。朱希の身体に負担が掛かる」


英介は、いつだってそればっかり。

貧血持ちで……偏頭痛持ちなだけで弱いわけじゃないのに……

点滴でどうにかなるレベルなのに……


病院の跡取りはまだか?

学会に同行すれば、チラチラとそんな声も耳にしない訳じゃない。

英介は気にするなって言うけれど……



「だって……跡取り……」


「気にするなって言ってるだろ。俺は跡取りが欲しくて、子供が欲しいって思ってる訳じゃない」


「わかってるよ……でも……このまま出来なかったら……病院は……どうなるの?」


そうだよ。

世襲がどうこうじゃない。

継ぐ人が居なければ、英介と俊也が守って来た病院が失くなる。

だから………私はどうしたらいいの?


「朱希はどうもしなくていい。跡取りなんて……どうにでもなる」


英介は何か考えがあっての場合しか、どうにでもなるとは言わない。


よく聞けよ、としっかりと私の瞳を見据えて……指を絡めて繋いで。


「あと1年経っても……出来なかったら養子縁組をする。その後でも、子供が出来たって構わない。それなら……朱希も安心だろ?」


もう……英介はそうやって、私が安心させる言葉をくれて………私の涙を誘う。

悲しい、苦しい、寂しい、辛い涙じゃない。

安心した、嬉しい涙。

長い指先に掬われると、うん、と。

ありがとう、と涙が止まらなくなって抱きすくめられる。


養子縁組なんて……英介の口から出て来たのには、きっと理由がある。

ただ私を安心させるだけじゃない。

海外で戦争孤児になった子供達を、たくさん見て来たから。

親が居なくても、明るく元気に無邪気に懐いてくる。

生きようと必死に、小さな体でもがいている。

それは、親とは暮らせない事情を抱えた子供を幸せにしてあげたい。

血は繋がっていなくても、愛情をたくさん灌いで。
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