ふたつの愛し方
Episode:11
《英介》


医局で事務作業している所へーーー。


「お疲れ様。あのね……英介さんの家でご飯を作ってあげたり、身の回りの世話をしたいんだけど……いいかしら?」


華世が、寄り添うように隣の椅子に座って面倒な事を言い出した。


俺の部屋には、朱希の物が今でも置いてあって、朱希が勝手に増やした朱希しか使っていない調理器具もある。

それを、華世に触らせたくない。

少しでも気のある振りをしなければいけない手前、一緒に寝なければ怪しまれるが……

朱希を幾度となく抱いたベッドで、寝たくない。

二人で部屋に帰れば、朱希と遭遇する可能性もある。

辛い想いはさせたくない。

だったら、俺が華世の家に行くよ。


「それでも構わないわ。英介さんの世話をしてあげれるなら」


「……今日は、華世も日勤だろ?行ってもいいか?」


「もちろんよ。嬉しいわ!」


腕に寄り添う華世が鬱陶しい。


ーーー。


華世の作ってくれた飯は不味くはないけれど、俊也と朱希が作ってくれる、食べ馴れた味の方が断然、旨い。


美味しい?と訊かれて、仕方なく頷く。


俊也と朱希の飯が食いたい。

暫く、食ってないな……



「今日は泊まってくれる?」


「……夜勤だから泊まるつもりだよ。ロッカーから下着とかも持ってきたから」


嬉しいわ、と肩に凭れかかってきて、鼻を掠めた匂いは、俺の苦手な甘い匂い。

吐き気がしそうだが……耐えるしかない。


シャワーを借りたけれど、シャンプーもボディーソープも予想通り……甘い香り。

ロッカールームに入っていた自分の物を使った。


同じベッドに寝転がると、しがみつくようにくっついてきて……ーー…


「……キスして?」


朱希以外としたくない。

こうして触れられるだけで突き放したくなるってのに。

仕方ないのはわかっている。


だけど……早かれ遅かれ言われるだろう。

誘われるだろう。
< 60 / 133 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop